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19 - ソメイー幻覚の話しー

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2024年06月12日

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アマガイに来て7日目。1週間が経った。


いつもの様に暖かい日差しと涼しい風が運んで来た美味しそうなご飯の香りで心地よく目を覚ます。

体を起こすといつも必ず誰か寝ていたのに今日は誰も寝ていない。

そんな光景を見て私は


「(もう1人シダレみたいに消えちゃった…?)」

なんて嫌な予感がした。

少しの間、頭が真っ白になる。


「まさかね…」

と自分に「大丈夫」と暗示をかける様に呟きながらご飯の香りのする方へ向かう。


少しすると「ふんふふ〜ん」と楽しそうな鼻歌が聞こえ始めた。

誰かいると確信した私は早歩きで向かい、キッチンへと目をやると完成した料理をお皿へよそっているソメイの姿がいた。


「ソメイ!おはよう!」

そう安心感から溢れた嬉しそうな声色で挨拶をするとゆっくりと振り返ったソメイが優しく微笑み


「おはよう!丁度ご飯できたから座ってていいよ」

と返してくれた。

言われた通りにイスに座り、ソメイに気になっていた不安な事を聞く


「ねぇ、ソメイ?」

「ん?」

「シダレとヤエは?」

「あ〜…」

困った様な納得した様な声をだしたかと思えば不思議な事を言い出した。


「きっともう寝ちゃったんだよ」

不思議だったのになぜか“もう居ない”そんな事だけがその一言に詰まっている様な気がした。


「はい!食べよ!」

そんないつも通りなソメイの言葉に現実に戻されるといつの間にかテーブルに置かれていた美味しそうなご飯が目の前に広がった。

ゴクリ…とヨダレを飲み込み


「じゃあ手を合わせて!」

ソメイのその言葉に合わせて手をパチッと合わせ2人で「いただきます!」と箸を持つ。

最初にアマガイに来た時と比べると箸を持つのも上手くなったなとしみじみ思う。


「今日行く場所はもう決まってるんだ!」

急にソメイがそんな事を言うから


「桜のブランコの所?」

と聞いてみるとびっくりした様に目を見開き


「なんでわかったの!?」

と聞き出した。「やっぱりか…」と苦笑いをして


「シダレもヤエもそうだったから」

そう返した。


ご飯を食べ終わり、ソメイがお皿を洗ってくれているのでその間にぐで〜っとしているとお皿を洗いながらソメイが話しかけてきた。


「ねぇねぇ、今日はさ色んな話ししながら行かない?」

そんな事聞かなくても良いのにと言う気持ちと突然どうしたのだろう?と言う気持ちがありながらも


「わかった!」

と返信をした。


お皿を洗い終わったソメイと2人で川の方へと向かう最中にはこんな話しをしてくれた。


「サクラ、三途の川って知ってる? 」

「まぁ、聞いた事は…」

「死者が渡る川なんだけどね。」


「あっ渡るって言うか舟で川を下る…?んだけど…ここでサクラに問題!」

「お!当てるぞ!」

「三途の川に現れる舟っていったいなんでしょうか!」

思っていたよりも難しい問題につい顔を歪める。「舟とはどんな乗り物でしょうか!」なんかだと思い正直舐めていた。


なんせ「川を見ると魚になる」そんな子供騙しをする…いや、これは子供騙しじゃない。

急に私は何を言っているんだと焦っていると


「サクラ?」

とソメイが心配そうに顔を覗かせ正気に戻る。


「考え事してただけだよ!」

と愛想笑いをすると「そぉ?」と少しだけ心配そうに言っていたが気を取り直し


「答え、決まった?」

と聞いてきた。

「ん〜?分からないな〜…」

「正解は〜…幻覚でした〜」

「え…」

「まぁその反応になるよね」

「生き物ってね本能的に生きようとするんだよ」

「例えば!サクラは片手に包丁を持っています!」

「うん」

「それを胸に刺してください!」

「え…そんな事したら死んじゃうよ?」

「そうだね!でも!今普通に片手を胸に当てて?」

「こう…?」

そう言われるがまま少し難しそうな幻覚の話しになった。


「そう!で!もし!今当ててる手に包丁があったら!」

「私は死んじゃうね」

「そう言う事!」

「ん?どう言う事…?」

「自分はそれをやっても安全だ!って言える物は何の躊躇いも無しに出来ちゃうんだよ!」

「それは死者も同じで危険だと感じる物はその事を行うまで躊躇っちゃうんだけど

安全だと思えば躊躇いなくやれる。


そして!“死に向かうのは怖く無い。だってこの舟で向かって行くのだから”と言う幻覚でみんな川を下るんだよ」

そこまで聞いてやっと意味がわかってきた。

嘘みたいな話しなのにソメイが話すからどこか本当な気がしてしまう。


「あっ川渡るよ」

と言われ目をつぶりながら思う。

幻覚に騙されそのまま死ぬ時がいつか必ずくる。


その時まで4人で居たかったな。

川の流れる音が大きく聞こえる中、私の脳裏にはシダレとヤエの笑顔が映っていた。

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