その日の仕事は、特にトラブルもなく順調に過ぎていった。
昼の休憩では、バイトの山本君と恋愛についての話で盛り上がり、
彼女との誕生日はどう過ごしたかなどを教えてもらった。
雪子には息子がいるので、こうした若いバイトの子達とも気楽に話が出来る。
若い世代とのお喋りは、なんだかパワーを貰えるようで楽しかった。
午後4時になると、雪子は仕事の引継ぎを終えてスーパーを後にした。
今日は定時で帰る事が出来た。
家までの道のりを歩いていると、スマホにメッセージが届いた。
「誰だろう?」と思いスマホを見ると、幼馴染の優子からだった。
【今日は定時で上がれたかな? 暇ならご飯行かない?】
雪子はちょうど優子に豊村悦司似のイケオジについて話したかったので、
喜んで行く事にする。
【うん、行く行く!】
【じゃあさ、イタリアンの『ピアチェーレ』でいい? なんかピザが食べたい気分】
【七里ガ浜のだよね? オッケー!】
【じゃあ6時に予約入れておくのでよろしく!】
【了解!】
雪子との食事は三週間ぶりだ。
前回はランチだったから互いに車で移動したが、今夜は飲むから電車で行こうと思う。
約束した店は、雪子の家から2~3キロの距離なので江ノ電を使えばすぐだ。
優子は辻堂に住んでいるのでおそらくタクシーで来るだろう。
菊田優子は雪子の幼稚園時代からの幼馴染だ。
元々優子も鎌倉市内に住んでいたが、結婚を機に辻堂へ移り住んだ。
優子は大学時代にバイト先で知り合った菊田修と結婚していた。
菊田は辻堂の地主の息子で、現在は不動産賃貸業をしながら、辻堂でカフェを経営している。
経営と言っても、カフェはほとんど趣味みたいなものだと優子は笑う。
菊田はサーファーで湘南の海をこよなく愛していた。
経営するカフェにはいつもサーファーが集い、仲間達からは頼りになる兄貴分として慕われていた。
二人が付き合い出してすぐ、優子は菊田を雪子に紹介した。
それ以来の付き合いなのでもう30年以上の付き合いだ。
一人っ子の雪子にとって、菊田は兄のような存在でもあった。
雪子が離婚する際には菊田夫妻に親身に相談に乗ってもらい、弁護士を紹介してくれたのも菊田だった。
そして妻の優子も地元でフリースクールの経営をしていた。
なんらかの事情があって学校に行けなくなった子供達を、自由な環境でのびのび教育する学校の運営に携わっていた。
そのフリースクールはかなり評判が良く、神奈川県内だけでなくわざわざ東京から通って来る子供達もいた。
菊田夫妻には子供がいないので、優子はスクールの子供達に沢山の愛情を注いでいた。
また菊田夫妻は雪子の息子・和真の事を、実の甥っ子のように可愛がってくれていた。
和真は小さい頃から菊田にサーフィンを教わり、
菊田がサーフィン仲間とキャンプに行く際には、和真を一緒に連れて行ってくれた。
だから、息子の和真にとっても菊田夫妻は親戚のような存在だった。
雪子は家へ帰ると洗濯物を取り込み雨戸を閉め、すぐに出かける準備を始めた。
今日は久しぶりのディナー、それも海沿いの洒落たレストランだ。
以前優子に会った時に、
「更年期でも、オシャレだけは絶対に手を抜いたらだめよ!」
と言われた。
女がおしゃれ心をなくしたら、あとは『老い』まっしぐららしい。
だから、仕事に行ったままの服装で行けば何か言われそうだ。
雪子は慌ててクローゼットを物色し始める。
そこで一度も袖を通していないワンピースを見つける。
ワンピースはドッキングワンピースになっていて、
トップはシンプルなベージュのふわっとしたニット、
スカートの部分はモリス柄のいシックなロングフレアースカートになっている。
これにしようと思った雪子は、早速準備を始めた。
デパートに勤めていた頃は黒のパンツスーツが多かったが、
本来、雪子にはこうしたふわっとしたスタイルが良く似合う。
(そう言えば最近服も買っていないな……)
そんな事を思いながら、雪子は軽くメイクを直した。
準備を終えるとちょうど時間になったので、家を出て駅へ向かった。
江ノ電に乗ると観光客がとても多い。
車窓には夕日に照らされキラキラと輝く美しい海が映し出されている。
小さい頃から見慣れたこの景色は、何度見ても癒される。
決して飽きる事がない。
美しい海に目を奪われているとあっという間に着いた。
電車を降りた雪子は、駅を出て目的の店まで颯爽と歩き始めた。
コメント
5件
仲の良い先輩のお子さんが、フリースクールに行ってました😌すごく合ってた様で、好きなことを見つけられたそうです✨ 優子さんのスクールもそんなところなんだろうな🥺
優子が住んでいる辻堂に住んでいるので ←に少し違和感を感じましたが、ok でしたらスルーしてください
菊田夫妻お子さんがいない分フリースクールや雪子さんの息子さんも我が子同然に可愛がるとか懐が大きくてとても素敵✨雪子さんもフワッとワンピース👗でおしゃれに行ってらっしゃい👋