テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
※遥の夢。
日下部が、目の前にいる。
制服のシャツは開いていて、喉もとが脈打っていた。
視線を上げると、日下部はいつものように目を細めて、でも笑ってはいなかった。
「……触れたいなら、触れればいいだろ」
その声が、ひどく遠くで響いた気がした。
なのに、遥の手は、勝手に伸びていた。
胸に、肩に、腰に。
(だめだ……だめ、なのに……)
触れるたび、日下部の息がかすかに震えた。
でも、それが痛みか快感か、遥には分からなかった。
「おまえが欲しかったんだろ? 昔から、ずっと」
そう言って、日下部はシャツを脱ぐ。
それを止めようとした手が、むしろ強く引き寄せていた。
(だめ、だめ、俺が触れたら……)
指先が肌をなぞる。唇がふれる。
それだけで、日下部がわずかに喘いだ。
「……もっと、していいよ」
優しい声だった。
遥の胸が、苦しくなった。
(やめろ……そんな声、そんな顔……)
「俺、おまえにされるなら──壊れてもいいって思ってた」
(違う……違うんだ……俺は、そんなこと……)
日下部の手が、遥の頬をふれた。
あたたかいはずなのに、冷たくて、白かった。
そして──
「でも、おまえが壊したのは俺じゃない。……自分自身だよ」
その瞬間、世界が割れるような音がした。
遥は目を覚ました。
額には汗。喉は乾いて、腕は震えていた。
シーツの中で拳を握りしめる。
夢の中で、自分がどんな顔をしていたのか──怖くて思い出せなかった。
(……俺は、最低だ)
そう思った時には、もう目から涙がこぼれていた。