テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第十二章 ラディスへの帰還
第三話 変わらぬ場所 前編
それから三日間。
5人は昼は馬を進め、夜は森の中で野営をしながらひたすら南へ向かった。
朝日が昇れば出発し、日が沈めば焚き火を囲む。
簡単な食事を取りながら他愛もない話をし、疲れた身体を休める。
そんな旅の時間が静かに過ぎていった。
幸い、魔物の襲撃に遭うことはほとんどなかった。
時折遠くで獣の声が聞こえることはあったが、白霧山周辺で感じていたような張り詰めた気配はない。
世界の全てが変わってしまったような濃密な日々から離れ、5人は久しぶりに穏やかな旅をしていた。
そして、四日目の朝を迎える。
鳥のさえずりが響き、冷たい朝靄が森を包み込んでいた。
白い霧の向こうで、木々が静かに揺れている。
「……朝か」
ハヤトが小さく息を吐く。
簡単な朝食を囲みながら、
5人はぼんやりと焚き火を見つめていた。
パチパチと薪が燃える音。
朝の森の静けさ。
それら全てが、どこか穏やかだった。
干し肉を齧っていたダイチが、ふと思い出したように顔を上げる。
「今日中には着くんやんな?」
「ああ」
ハヤトが頷く。
「このまま順調に進めば、昼過ぎにはラディスへ入れるだろう」
その言葉にジントの胸が少しだけ高鳴った。
ーーラディス。
二年ぶりの故郷。
薬屋。
祖母。
そして、幼い頃から過ごした様々な場所。
「よっしゃ、早よ行こ!」
ダイチが勢いよく立ち上がる。
「お前は朝から元気だな……」
ジュウタロウが呆れたように息を吐く。
「そらそうやろ! ラディスやで!?」
「ダイチの場合、家より食事の方を楽しみにしてそうだけどな」
ハヤトが笑う。
「否定はせん!」
笑顔で返す。
そのやり取りにジントも小さく笑った。
手早く野営を片付け、馬へ荷物を積み直す。
そして5人は再び森の道へ戻った。
深く広大な森。
頭上を覆う木々が陽光を遮り、道にはまだ朝露が残っている。
時折鹿や猪などの野生動物が木々の隙間から姿を見せた。
だが白霧山に比べれば、この森の道はずっと穏やかだった。
しっかりと踏み固められた街道。
人の往来がある気配。
遠くには鳥の声。
魔物の気配も薄い。
「なんか平和やなぁ」
#恋愛
ばたっちゅ
4,548
成瀬りん
148
#怪異
215
ダイチが馬上で笑う。
「感覚が麻痺しているだけかもしれないぞ」
ジュウタロウが冷静に返す。
「確かに」
ハヤトも苦笑した。
白霧山を越え。
月の里へ辿り着き。
失われた歴史と、自分達の知らなかった真実に触れた。
そんな濃密な日々を経た後では。
今の静かな森が、どこか夢のように感じられた。
やがて少しずつ木々の間隔が広くなっていく。
森の奥へ差し込む陽光。
開けた景色。
そして
「あ……」
ジントが小さく声を漏らした。
遠くに街を囲う大きな外壁が見える。
高く伸びる教会の塔。
煙を上げる建物群。
懐かしい景色。
「ラディスや……!」
ダイチが嬉しそうに声を上げた。
その瞬間、ジントの胸が大きく高鳴る。
見慣れた森。
懐かしい空気。
風の匂いまで覚えていた。
「確か、この辺の奥に秘密基地作ったよね」
ジントが楽しそうに笑う。
「あー!せや!この近くやったなぁ!」
ダイチが声を上げた。
「まだ残っとるかな?」
「絶対もう崩れてるよ」
「いやいや、オレ達の秘密基地めっちゃ頑丈やったし!」
そんな他愛ない会話にシュンタが吹き出す。
「何歳やねんお前ら」
「男は一生秘密基地好きなんや!」
「そうなのか」
ジュウタロウが呆れたように返す。
だがその横顔はどこか穏やかだった。
そして5人はついにラディス北門へ辿り着く。
門前では数人の門兵が行き交う人々を確認していた。
そのうちの一人が、こちらへ近付いてくる5人を見て眉をひそめる。
だが、ダイチとジントの顔を見た瞬間。
「あっ!!」
門兵が目を見開いた。
「ダイチ君!?」
「おっちゃん! 久しぶりやな!」
ダイチが馬上から大きく手を振る。
「それに……ジント君も!」
門兵は驚いたように笑った。
この門兵は、ジントとダイチが幼い頃からの顔馴染みだった。
黒髪黒眼のジントにも、昔から分け隔てなく接してくれる数少ない大人の一人だ。
「戻ってきたのかい!」
「うん、久々に帰ってきたで」
ダイチが笑う。
門兵はしみじみと二人を見つめた。
「いやぁ……逞しくなったなぁ」
その言葉に、ジントが少し照れたように目を伏せる。
「さあ、早く家族に顔を見せておいで」
門兵は優しく笑い、門を開けてくれた。
「……ありがとう」
ジントは小さく微笑み、ぺこりと頭を下げた。
街へ入る。
懐かしい石畳。
聞き慣れた人々の声。
遠くに聞こえる市場の喧騒。
二年という歳月が嘘のように、ラディスはそこにあった。
北門から少し進む。
通りからしばらく進んだ角を曲がる。
やがて、小さな石造りの建物が見えてきた。
軒先には乾燥薬草。
木枠の窓。
見慣れた看板。
「変わってへんなぁ」
ダイチが嬉しそうに笑う。
ジントは胸元を押さえ、静かに深呼吸した。
緊張している。
けれど、会いたい。
今はそれだけだった。
馬を降り、近くの木に繋いだ。
僅かに震える足で近づく。
そっと木の扉へ手を掛ける。
――カランカラン。
乾いたベルの音。
ふわりと漂う薬草の香り。
雑多に並ぶ薬瓶。
懐かしい空気。
そして店の奥から。
「いらっしゃい、どなたかねぇ……」
いつもの、少し掠れた祖母の声。
ジントの喉が小さく震えた。
「……ばあちゃん」
声が掠れる。
「……ただいま」
その瞬間。
奥にいた祖母、マーサがゆっくり顔を上げた。
そして、目を見開く。
信じられないものを見るように、黒髪の青年を見つめた。
「……ジン……ト……?」
震える声。
マーサはゆっくり歩み寄る。
まるで夢が消えてしまわないように。
そっと両手でジントの頬へ触れた。
「あぁ……」
皺だらけの指先が小さく震える。
「……おかえり……」
次の瞬間。
マーサはジントを優しく抱き締めた。
その温もりに、ジントはようやく本当に帰ってきたのだと実感した。
コメント
5件
ばあちゃんとの再会シーン泣けますね😭ジントがこの2年で成長して仲間と帰ってきたらばあちゃんも嬉しいだろうなぁ🥹
感涙が止まらないーーーおかえりなさーーい😭😭😭✨ 長かったね、頑張ったね、私ばあちゃんと同じ気持ちです😭♡♡ゆっくり旅話してあげてって感じです🥹
おお、帰ってきたね……! ラディスの街並み、門番のおっちゃん、そして「ばあちゃん」の台詞と抱擁。ジントが震えながら「ただいま」って言う場面、もう胸がぎゅっとなったよ。二年ぶりの故郷が「変わらへんなぁ」って描写も、あの静かな温かさが伝わってきてほっこりした。秘密基地の話とか、ちょっとした少年時代の会話も良いアクセントだね。次が待ち遠しい!