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第12話 はごろも党
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
画面に登場したまひろは、今日は黄緑のトレーナーにチェック柄のハーフパンツ。子ども用の腕時計を右手にはめていて、椅子にちょこんと座る姿がまるで小学生そのもの。前髪はぱっつん、無垢な丸い瞳は好奇心でいっぱいに輝いている。
隣のミウは、生成りのブラウスに薄紫色のカーディガン、膝下丈のフレアスカート。髪は後ろでひとつに結ばれ、耳には小さな真珠のピアスをつけていた。微笑みはいつもどおり柔らかく、カメラに向かって軽く手を振っている。
まひろが無邪気に声を上げた。
「ねぇミウおねえちゃん。ぼくね、最近ニュース見てて思ったんだ。政治とかむずかしいこと、みんな“どうせ変わらない”って言うけど……ほんとにそうかなぁ?」
コメント欄がざわつく。「確かに」「自分の声なんて届かない」と視聴者の本音が流れる。
疑惑の芽生え
ミウがやわらかく笑い、首をかしげた。
「え〜♡ でもさ、もし“ちょっとした声”が集まったら……ほんとに世の中を動かせるかもしれないよねぇ」
まひろが小首をかしげて、無垢な声で言う。
「ぼくはただ、みんなに“ちゃんと考えてみて”って思っただけなんだ。誰かが勝手に決めちゃうより、みんなで決めた方がいいでしょ?」
コメント欄には「その通り!」「一度考えてみるの大事」と賛同が広がる。
レイNews記事化
翌日、「レイNews」には記事が並んだ。
記事の裏では、ミウが管理画面に“市民の声”として匿名投稿を水増ししていた。
「給食費の無償化を」「深夜営業の規制を」「広告のあり方を考えて」。
実際にはほんの数十人の声を、数万人分のように加工して数字を作り上げていた。
群衆の暴走
SNSでは「#考える党」というハッシュタグが広がり、まとめサイトは「はごろも党、誕生か?」と記事を出した。
ワイドショーは“若い世代の新しい動き”として取り上げ、街頭インタビューで「私たちの声も届くのでは」と期待する人々を映し出した。
やがて自治体議員のひとりが、この動きに便乗する形で「市民の声を尊重する」と声明。小さな政策変更が実際に行われ、人々は“声が届いた”と錯覚する。
クライマックス
数週間後、「はごろもまごころ」の視聴者は自然に「はごろも党」と呼ばれるコミュニティを形成していた。
その実態は、まひろの無邪気な疑問とミウのふんわりした同意にすぎない。
だが人々は「正しい選択を導いてくれる存在」と信じて疑わなかった。
結末
夜の配信。
まひろは黄緑のトレーナーの袖をいじりながら、無垢な瞳でカメラに向けて言った。
「ぼく……ただ“みんなで考えたいな”って思っただけなのに」
ミウはふんわりと笑みを浮かべ、軽く手を振った。
「え〜♡ でも、それが動きを作っちゃったんだよね。
すごいよね、まひろ。……みんなで考えるって、ほんとに力になるんだねぇ♡」
コメント欄は「はごろも党に入ります!」「信じてついていきたい」で溢れた。
その裏で、ミウのパソコン画面には“次の標的候補リスト”が並んでいた。
芸能、企業、行政。
「はごろも党」がどのように広がるかは、すでに彼女の指先の計算に組み込まれていた。
無垢な問いとふんわり同意、その裏で“はごろも党”は人々の心を占拠していった。
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