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第13話 消費の裏側
配信
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
画面に現れたまひろは、今日は白地にカラフルな線が入った長袖シャツに、こげ茶の半ズボン。足元は少し大きめのスニーカーで、ぱっつん前髪の下の丸い瞳はきらきら輝いている。ランドセルは机の横に無造作に置かれ、子どもらしい無垢さをにじませていた。
隣のミウは、淡い水色のブラウスにロングスカート。髪は緩やかにウェーブをかけ、肩に流している。耳には小さな雫型のイヤリングを光らせ、やさしげな笑みでカメラを見ていた。
まひろが袖を握りしめながら言った。
「ねぇミウおねえちゃん。ぼくね、すごく人気のあるファッションブランドを知ったんだ。友だちも着てるし、かわいいなって思ったんだけど……ちょっと気になることがあるんだ」
コメント欄に「知ってる!」「愛用してる」と反応が並ぶ。
「なんだか、その服を作ってる人たちのこと……あんまり話題にならないよね。ほんとにみんな安心して着られるのかなぁって」
疑惑の芽生え
ミウはにっこり笑い、首をかしげる。
「え〜♡ おしゃれなのは素敵だけどぉ……もし作ってる人がすごく大変な環境にいたら、ちょっと心配だよねぇ」
「うん。ぼくはただ、“安心して着られるのかな”って思っただけなんだ」
コメント欄は「確かに聞いたことない」「海外の工場ってどうなってるの?」とざわつき始めた。
レイNews記事化
その夜、「レイNews」には記事が並んだ。
1. 人気ファッションブランドX社に“労働環境”の疑問
2. SNSで拡散『低価格の裏に児童労働?』
3. 現地の元従業員証言「休みなく働かされた」
4. 過去に類似問題があったブランドを比較
5. 消費者団体「透明性を求める」
記事は淡々としたニュース文体。だが匿名証言や“参考資料”を組み合わせることで、あたかも児童労働が事実のように見せていた。
裏では、ミウが海外の無関係なニュース映像を“関連資料”として差し込んでいた。誰も確かめに行けない情報源を利用することで、疑念は膨らむしかない仕組みだった。
群衆の暴走
翌日SNSでは「#買わないで」が拡散。
「やっぱり裏は汚い」「もう着られない」
「子どもたちが犠牲になってたなんて」
まとめサイトは「消費の裏側」と題して炎上をまとめ、ワイドショーは“海外工場の映像”を流して視聴者に衝撃を与えた。
結果、販売店舗には抗議の電話が殺到。ECサイトは該当ブランドの商品を削除し、在庫は一気に不良資産と化した。
クライマックス
数日後、ブランドは「事実無根」と声明を出した。
だがそれはまた記事化される。
「労働問題を否定、だが証拠は示さず」
沈黙しても、反論しても、疑念は消えなかった。
数十年続いたブランドイメージは、一瞬で地に落ちた。
結末
夜の配信。
まひろはシャツの袖をぎゅっと握り、無垢な瞳でカメラを見つめる。
「ぼく……ただ“安心して着られるのかな”って思っただけなのに」
ミウはふんわり微笑み、両手を膝の上に重ねる。
「え〜♡ でも、みんなで考えられたんだから素敵だよね。
ほんとのおしゃれは、安心できるものじゃなきゃ♡」
コメント欄は「教えてくれてありがとう」「目が覚めた」で溢れた。
その裏で、ミウのPCには次のターゲットリストが並んでいた。
“声優”“歌手”“文化人”。
記事タイトルの雛形はすでに入力済みだった。
> 無垢な声とふんわり同意、その裏でひとつのブランドの未来が静かに切り落とされていた。