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その後二人はマンションへ戻った。
早めの時間に夕食を終えたので、時刻はまだ午後7時だ。
一樹はリビングへ行くとネクタイを解きながらテレビのニュースをつける。
一方楓はすぐにガチャポンの人形を飾ろうと、いそいそと自室へ入って行った。
(嬉しい! やっと全部揃ったわ)
楓はこれまでに入手したキャラクターの隣に、今日手に入れたばかりのキャラクターを並べる。
しかし新しいキャラクターは頭の比重が大きいのか、バランスが悪くすぐに倒れてしまう。
「あれ……倒れちゃう……どうしよう……」
楓ががっかりしていると、突然背後に人の気配を感じた。
開け放していたドアから一樹が入って来たようだ。
「これが楓のお気に入りか」
いきなり耳元に一樹の声が響いたので楓はびっくりして飛び上がる。
「ん? どうした? うまく立たないのか?」」
「はい…せっかく手に入れたのに倒れちゃうんです」
「ちょっと俺に貸してみて……」
もう一度一樹が並べてみるが、やはり頭が重くて倒れてしまう。
「頭が大きくて重いんですかね?」
「うーん……」
一樹は唸ると、少し考えてから言った。
「楓、人形の脚の部分を固定しても大丈夫か?」
「え? あ、はい……並べて飾れるなら」
「じゃあリビングにこの人形を全部持って来て」
一樹はそう言って玄関へ向かう。
そしてシューズボックスの隣の収納棚から工具箱を取り出すと、リビングへ持っていった。
楓は不思議に思いながら言われた通りにテーブルへ人形を持って行った。
すると一樹は工具箱からグルーガンを取り出してコンセントを入れる。
「あ、グルーガン?」
「うん、前に組員の子供のおもちゃを直してやった時に買ったんだ。それがまさか今役に立つとはな」
一樹は更に工具箱から細長い木の端材を取り出す。そしてその上に人形を均等に並べる。
バランス良く位置が決まると、今度は人形を置いた場所に鉛筆で印をつけていった。
「人形は5個だけでいいのか?」
「あ、はい。一種類ずつあれば充分です。今日買っていただいた他のカプセルは施設へ持って行ってもいいですか?」
「もちろん」
一樹は微笑んで頷くと、温まったグルーガンで印のついた位置へロウを垂らしていった。
そしてロウが固まらないうちに人形を接着する。
「わっ、凄い! これなら倒れない!」
「我ながらいいアイディアだろう?」
一樹は丁寧に5つのキャラクター全てを、バランスよく端材に接着していった。
ロウは冷えて固まると更に安定感が増した。
全てのロウが固まり人形がしっかりと固定されると一樹が言った。
「これで大丈夫だ。このまま飾ってごらん」
「ありがとうございます」
楓は嬉しくてウキウキしながら自室へ戻り、先ほどのチェストの上にキャラクターを飾ってみる。
すると今度は倒れる事無く綺麗に並んだ。
楓は一歩後ろに下がり満足気に人形達を見つめる。嬉しくて思わず顔がニヤけてしまう。
そして今度は部屋全体を眺めてみた。
部屋には先日一樹に買ってもらったお気に入りの家具や楓が大切にしてきた小物たちが並んでいた。
好きな物だけに囲まれたこの素敵な空間が、楓は愛おしくてたまらなかった。
(諦めていた私の城が着々と出来上がっていくわ……)
楓は思い描いていた夢が次々に形になっていく事に、大きな幸せを感じていた。
楓がリビングへ戻ると一樹が聞いた。
「大丈夫だった?」
「はい。本当にありがとうございました。でも、社長が器用なので意外でした」
「手先は結構器用なんだよ。子供の頃はプラモデルにハマってたし美術はいつも『5』だったからね」
「えっ? 『5』ですか? 凄い。私は不器用だから羨ましいです」
「楓は不器用なんかじゃないよ。料理だって上手だし部屋もいつも綺麗にしてくれているし。不器用なんかじゃないさ」
「それは器用とはあまり関係ないかと……」
「いや、関係あるよ。楓はもっと自分に自信を持った方がいい」
一樹のさり気ない一言が楓に自信を与えてくれる。
これまで全く自分に自信が持てなかった楓は、一樹と生活するうちに徐々に自分の事が好きになっていた。
その時、椅子に置いていた楓のバッグの中のスマホが鳴った。
「出たら?」
一樹がそう言ったので楓は電話に出る。電話は愛育園の園長・景子からだった。
「もしもし、お母さん?」
「楓。忙しい時間にごめんね。今大丈夫? 一緒に住んでいるとかいう人はもう帰って来たの?」
「うん、いるけど大丈夫だよ。あ、もしかしてサンタクロースの件?」
「そう。あれから探してみたんだけれどやっぱりいなくてさぁ、楓の方はどうなったかなーと思って。そろそろ準備もしなくちゃだし」
「ごめん…それがいい人が見つからなくて。ホテルで一緒だった客室係のおじさんにも聞いてみたんだけど、みんな家族で過ごしたり孫が来たりで忙しいみたい。だから今年のサンタは私がやるよ。あ、そうそう栄子さんが東京に戻って来たの知ってる?」
「うん、この前電話があったわ。クリスマスには顔を出すって言ってた」
「だったら栄子さんと二人でやるよ」
その時一樹が傍に来て楓の肩をトントンと叩いた。
楓はなんだろうと思いつつ景子に言った。
「あ、お母さん、ちょっと待ってて」
楓は一度スマホから顔を離すと一樹に聞いた。
「何か?」
「サンタ役が必要なのか? だったらうちの若い衆を使え。何人必要なんだ?」
楓はスマホを持ったままびっくりする。
「えっ? さすがにそこまでは……」
「遠慮するな。うちにいる若いのはクリスマスに帰る所もなくて暇な奴が多い。だからちょうどいいじゃないか」
「……本当にいいんですか?」
「ああ。サンタは何人必要なんだ?」
「一人いれば充分です。ただ子供達はみんなすごく元気で、サンタさんが来るといつもタックルするしちゃうんです。それでも大丈夫ですか?」
「筋肉マッチョを揃えりゃいいんだな? お安い御用だ」
「ありがとうございます」
楓の心は感動で打ち震えていた。
するとスマホ越しに今の会話を聞いていた景子が、嬉しそうに叫んだ。
「まぁっ、助かるっ!!! でも本当に頼んじゃってもいいのかしら?」
「うん、大丈夫」
すると一樹が電話を代わるようにジェスチャーしたので、楓はスマホを渡した。
「初めまして。楓さんと一緒に住んでいる東条と申します。いずれご挨拶にと思っていたのですが、なかなか伺えずに申し訳ありません」
「あら、初めまして。愛育園の園長をしております野島と申します。楓がお世話になりありがとうございます」
「いえいえこちらこそ。で、サンタの件ですが、若いのを何人か連れて行きますよ。その時に直接ご挨拶させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「もちろんお待ちしておりますよ。でも本当にお願いしちゃっていいんでしょうか?」
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。助かるわぁ、クリスマスは子供達が毎年楽しみにしているんですよ」
「お役に立てれば嬉しいです」
「じゃあクリスマスイブにお待ちしていますね」
二人の電話が終わると楓が聞いた。
「ありがとうございます。本当に助かります」
「たまには若い奴らにボランティアまがいの事をさせるのもいいだろう。それと、当日持って行くプレゼントも用意させるから、後で子供の人数と年齢を教えてくれないか?」
「わ! 子供達喜びます。ありがとうございます」
(良かった……みんな喜ぶわ……)
楓は一樹からの思いがけない申し出に感動してつい目頭が熱くなる。
「じゃあ先にシャワーを浴びるよ」
一樹はニッコリと微笑むとバスルームへ向かった。
そんな一樹の広い背中を見つめながら、楓は自分の中で何かが少しずつ変化していくのを感じていた。
コメント
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一樹さんはほんとによく気がつくしサラッとお手伝いしてくれる。 施設のサンタ🎅だって助っ人準備してくれたり至れりつくせり。こんな暖かい人柄に触れて惚れないわけない😆 施設のお母さんが一樹さんを認めてくれるといいなぁ🥰 楓ちゃんの幸せの為にもね🫶
子供達も喜ぶだろうな🎵クリスマスは一大イベントだものね🩷
サンタは一人で充分です。 ミッキーマウスが複数居たら駄目なのと同じレベルですw ガチャポンのお人形飾ったり、楓ちゃんの夢や憧れが少しずつ叶えられていくね(*´˘`*) 是非ウェディングドレスの夢も叶えて貰いましょう!! 手先が器用…この一文で良からぬ事を妄想した人が何人いるか… 皆様のコメを楽しみに見にいこっ♪