部屋の天井を見つめていた。
真っ暗なはずなのに、頭の中だけは妙に明るく、ざわついていた。
――また、間違えた。
わかっていた。守ろうとしたつもりが、結局は裏切りに変わる。何度もそうだった。
「お前さ、自分で気づいてねぇだろ」
さっき、蓮司に笑いながら言われた言葉が耳から離れない。
「日下部の親のこと、言っちまった時点でアウトだよ。あいつにとっちゃ、それが一番の地雷なんだ」
「お前は守ったつもりだろ? でもな――裏切ったって思われてんだよ」
胸の奥がざらつく。砂を押し込まれるみたいに呼吸がしづらい。
(守ろうとした……本当に、それだけだったのに)
けれど、その「守ろうとした」という言葉ほど、今は自分を嘲笑する響きはなかった。
思い出す。
小学生のとき。クラスで孤立していた子に、消しゴムを貸した。
次の日、その子の机がひっくり返され、俺の名前と一緒に黒板に落書きされた。
(結局、俺のせいであいつはもっと孤立した)
中学のとき。掃除当番を押しつけられた女子に代わってやった。
その子は「遥にやらせた」と陰口を叩かれ、結局余計に標的になった。
(俺が動いたせいで、守りたかった奴をまた傷つけた)
俺が関わるほど、誰かが傷つく。
俺が庇うほど、誰かが深く抉られる。
そして今日。
日下部を守りたかった。
ずっと、そう思っていた。俺のせいであいつが傷つくくらいなら、全部俺が引き受ければいいって。
でも――。
「親に殴られてるんだってな」
「お前の親友がばらしたんだぞ」
笑い声。
あの瞬間の日下部の表情。
忘れられない。
(俺が、言ったせいで……)
守ろうとした? 違う。
結局は俺が日下部を売った。
加害者たちが言うまでもなく、そう見える。そうしか見えない。
「結局さ、お前はいつも間違えるんだよ。自分のことじゃなくて、相手を地獄に突き落とす方向でな」
蓮司の声が甦る。嘲りのはずなのに、妙に正確すぎて反論できなかった。
俺は人を守れない。
俺は人を傷つける。
それだけが、何度繰り返しても変わらない真実だった。
(また、間違えた)
(また、裏切った)
(また、俺が……壊した)
爪が掌に食い込み、布団の中で震える。
胸の奥が空洞になっていく。何をしても、俺は正しくなれない。
もし日下部と顔を合わせたら、何を言えばいい?
「ごめん」? 「違う」?
そんな言葉で許されるはずがない。
許されないことを、俺はしたんだ。
天井の暗闇に、ぼんやりと声が浮かぶ。
――また、間違えた。
ただそれだけが、胸を圧し潰していた。







