テラーノベル
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人間は、とても欲深い。
ドラマや映画に登場する女性たちのように、私もいつか嫉妬心や独占欲で我を見失い、彼の家庭を羨み、彼の大切なものを妬む日が来るのだろうか……。
今泉さんと肌を重ねたあの夜から、私の心を渦巻く喜びと、背中合わせの漠然とした不安。
後悔はしていない。
ただ、私たちの関係の先には、変わりたいと願ったその先には、何があるのだろう……。
飛び込んだ世界は、今までの私には想像もできず、感じたことのない快感と恐怖を同時に与える。
溢れ出す想いと罪悪感で心が揺れる。
抱きしめてほしいと心が求める。
開花し始めた身体の火照りが、あなたの身体を求める――。
「今泉さん……早く会いたい……」
小さく呟きながら雨空を見上げた。
街灯に照らし出された雨は、ぱちぱちと大きな音を立て、傾けた傘に当たって弾き飛ばされる。
私は頬にかかった水飛沫を指で拭い、その手のひらで冷えた頬をぱちんと叩いた。
駄目だ、駄目だ……
気持ちの切り替え……
気持ちの切り替え……
「さっ、仕事、仕事」
彼とした約束……。
自分を見失わぬようにと、精一杯の呪文を唱える。
闇夜に白く聳え立つ病院の正門へ差しかかると、大きく一度深呼吸をした。
傘を持つ手に力を込め、職員用の裏口を目指して緩やかな坂を上り始めた。
雨ざらしになっている『関係者以外は立ち入り禁止』の立て看板を横切り、一枚ガラスの扉の前で傘を閉じる。
傘から流れ落ちる雨水を軽く振り落とそうと身体を反転した、その瞬間だった。
自分が歩いて来た反対側の駐車場に人影が見え、手を止めた。
北側駐車場へ視線を向け、じっと目を凝らす。
職員用入り口から離れた場所にあるため、夜勤者もほとんど利用しない人気のない駐車場だ。
黒い人影はふらふらと時折足を止めながら、カツ、カツ、と甲高い足音を響かせ、私へ近づいて来る。
……ヒールの音?
……女性?
その歩調に得体の知れない不気味さを覚え、息を飲んだ。
#狂愛
柏木さくら
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#執着
猫とろ
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桃下結衣
643
入り口近くの防犯灯が、その異様な場所から現れた人物の姿を白く照らし出す。
目に飛び込んできたのは、ずぶ濡れの女性だった。
……!?
「楓ちゃん!?」
私は驚きの声を上げ、再び傘を広げて彼女のもとへ駆け寄った。
「どうしたの! こんなにびしょ濡れで……楓ちゃん……?」
次の瞬間。
急いでハンカチを取り出した私の手が止まり、言葉を失ったまま彼女の握るものを見つめた。
彼女の手には、役目を果たせないまま閉じられた傘が握られている。
「楓ちゃん……傘が……」
「亜紀先生……こんな時間に何してるんですか?
早く帰らないと……旦那さんが亜紀先生の帰りを待ってますよ」
彼女は私の言葉を遮るように顔を上げると、髪から頬へ滴り落ちる雨も気に留めず、にっこりと笑みを浮かべた。
雨の雫が滴り落ちる長い睫毛の下から覗く、普段とは違う虚ろな瞳。
「楓ちゃん……酔ってるの?」
私は取り出したハンカチで、濡れた前髪が張りついた彼女の額をそっと拭った。
「ええ、酔ってますよ。いけませんか?」
「いや……いけなくはないけど……何かあったの?
一人じゃないよね? 誰かと一緒だったんじゃないの?」
「一人で飲んでました。
亜紀先生だって、一人で飲みたい夜くらいあるでしょう?」
口元には笑みを貼りつけながらも、その口調はどこか挑戦的で投げやりだった。
虚ろな瞳が、たじろぐ私をじっと見据える。
「……そうだよね。あるよね、そんな気分の時も」
今まで一度も見たことのない彼女の変貌ぶりに戸惑いながらも、私は笑みを返した。
「へぇ……亜紀先生にもあるんだ。そんな時が」
楓ちゃんは小さく呟くと、くくっと含みのある笑みを漏らした。
「そんなことより、どうして傘もささずに。
こんな季節に、風邪引いちゃうから……」
「亜紀先生、知ってます?
雨に濡れるのって、案外気持ち良いんですよ。
全部を洗い流してくれそうな気がして……」
また私の言葉を遮ると、私の差した傘の下をすり抜け、彼女は再び雨の闇へと歩き出す。
「ま、待って! 楓ちゃん! どこへ行くの?」
慌てて彼女の腕を掴んだ。
コメント
1件
ああもうっ、このエピソード胸がギュッてなったよ…!😭💦 亜紀先生の「早く会いたい」って雨空見上げるシーン、切なさとときめきが同時に来てやばかった…!そこからの楓ちゃんの登場、ずぶ濡れで虚ろな瞳で「酔ってますよ」って笑うギャップが不気味で美しくて、一気に空気変わったのが鳥肌もん…。二人の関係性がどう転ぶか気になって仕方ないよ!次話も楽しみにしてるね、さくらさん!🌸✨