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#伝奇
#モキュメンタリーホラー
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その光景、女の子が屋上のフェンスによじ登り、その向こうに今にも飛び降りようとしているのが目に飛び込んだ瞬間、うちは全身を強張らせその場で固まってしまった。
ひきかえ、リョウの動きは素早かった。俺の知ったことじゃない、なんて突き放したこと言った割には。
と言うか、早すぎてうちの目にはまるで瞬間移動したかのように見えた。
赤錆びた金網のフェンスをよじ登り、今にも飛び降りようとしていたセーラー服姿の女の子――高校生ぐらいだろう、多分――の首根っこを引っつかみ、そのまま床へと叩きつけるようにして引きずり下ろす。
ぎゃああ、と聞くに堪えない酷い叫び声があがった。
お尻を強く打ち付けられ女子高生が悲鳴をあげたのだ。
ああ、かわいそ……。
とうちが同情する間もなく、
「騒ぐんじゃない」
女子高生の首ねっこを押さえつけたまま、短くリョウが言った。
口調が信じられないほど冷たい。うちの知っているリョウとはまるで別人みたいだった。
「俺達とここを出てもらうからな。その後は……」
「ちょ、ちょっと待ちぃな!」
慌ててうちは二人のもとに駆け寄っていた。
リョウの手から女子高生の身体を奪い取るようにして抱きしめる。
「そんな保護の仕方、あるかいな! 相手は女の子やろ! もっと優しく――」
したって、とうちが続けようとした時だった。
抱きしめていた女子高生が低い声で唸るのが聞こえた。
ハッと息を飲んだうちと顔をあげた女子高生の目が合う。
まともな精神状態じゃないのは一目でわかった。
次の瞬間、ガアッと獣みたいな叫び声をあげて飛びかかって来る女子高生。
体格的に劣るうちはなす術もなく、あっと言う間に押し倒されてしまう。
ゴン、と嫌な音を立ててうちは後頭部を床に打ち付けていた。
痛い、なんてもんじゃなかった。衝撃で目が、眼球が飛び出してしまうかと思った。
余りの激痛にうちが後頭部を押さえ、呻き声をあげていると――
「どうして! どうして邪魔をするの!? あと一息でライセサマと一つになれたのに! よくも! よくも……!」
ライセサマ?
何やそれ、と問い返す間もなく、女子高生は馬乗りになった女子高生が髪を振り乱して叫ぶ。
そして、うちの首に両手をかけて――女の子とは到底思えない力でギリギリと締めあげてくる。文字通り、鬼の表情で。
怖い。
純粋にうちはそう思った。
何らかの理由で精神的にも肉体的にもタガが外れているらしい。
非力なうちは抵抗を試みることもままならず、ただ絞殺されそうになっている。
全身から力が抜け、意識が遠のいてゆくのを覚えながらうちは自分の非力さを思い知った。かすれてゆく視界の中、西に沈んでゆく夕陽がやけにきれいだった。
ああ、これがうちのこの世の見納めか……。
うちがそう思った、その時だった。
トンと軽く肉を打つ音が響き―、糸が切れた操り人形のように全身を弛緩させた女子高生がダランとうちにのしかかって来る。
思いの外、女子高生は重たかった。
「まったく、はた迷惑な女だな……」
ため息をつきながらリョウが手刀を降ろす。どうやら当身で女子高生の意識を奪ったらしい。恐らく苦痛に感じる暇もなかっただろう。
「女相手に手をあげさせやがって。……胸糞の悪い」
「そ、それで……」
リョウに助け起こされ、うちは言った。
「その子、これからどうするん?」
「ふん縛ってその辺にでも転ばせとくか」
「えっ」
「……冗談だ」