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そこからはざっくばらんな飲み会が始まる。

進一・秋子夫妻は高齢であるにもかかわらず、よく食べよく飲んだ。


瑠璃子は子供を預けて久々の飲み会とあり嬉しそうだ。

そんな瑠璃子の隣には、いつも穏やかに微笑んでいる岸本医師の姿があった。


拓もすっかり皆と打ち解け、既に「拓ちゃん」と呼ばれていた。

真子は仲間に歓迎されている拓を見てとても嬉しそうだ。


自分の大切な仲間達が拓の事を受け入れてくれている。

そして、拓の方も真子の仲間達と親しくなろうとしてくれていた。

愛する仲間達が楽しく集っている様子を見て、真子は感無量だった。


そしてこうも思った。

もし自分がこの地から離れたら、この景色はもう二度と見られないのだと。


その時、真子の隣にいた秋子が言った。


「悩んでいるんでしょう?」


図星だった。

真子が相談する前から、秋子には全てわかっていたようだ。


「秋子さん、相変わらず鋭い!」


真子はびっくりして言った。


「そりゃあそうよー。私が何十年若者達の人生相談に乗ってきたと思ってるの? あの瑠璃子さんでさえ相談してきたのよー」


秋子はそう言ってフフッと笑った。

それは事実だった。


瑠璃子と岸本が付き合っていた時、瑠璃子がある事で思い悩んだ際に秋子は瑠璃子にアドバイスをした。

その結果二人は結ばれた。


秋子は昔美大の教授をしていたので、学生からの相談も頻繁に受けてきた。

だから相談事には慣れていた。


そこで真子は秋子に話を聞いてもらう事にした。

真子は秋子に今の素直な気持ちを伝えた。


「染織の仕事はずっと続けていきたいんです。染色は私のライフワークですから。ただその仕事を続ける上で場所はどこでもいいのかなって…。岩見沢は自然豊かで草木染の材料が簡単に手に入るので、工房を立ち上げた時はずっとここで頑張ろうと思っていました。でも拓に再会いしてその意志は揺らいでいます。拓のキャリアを潰したくない。だったら自分が神奈川へ帰るべきでは? そう思っています。会えなかった8年の間、多分私の心は死んでいました。でも拓に再会して生き返ったんです。だから拓とは離れたくないんです。これから一生ずっと拓の傍にいたいって思うんです」


真子は秋子にだけ聞こえるような声で思っている事を全て伝えた。

真子の気持ちを聞いた秋子は、一度うんと頷くと言った。


「今聞いた感じだと、真子ちゃんの中で一番大切なのは拓ちゃんなのね。あなたの今一番の望みは拓ちゃんの傍にいる事なのよ。それはとっても素敵な事だと思うわ。だって、人生の中でそこまで思える人にはなかなか巡り会わないでしょう? だからその気持ちに正直になった方がいいわね。人って不思議なものでね、自分の意志を尊重して真っ直ぐに進んでいると、全てが自然に上手くいっちゃう事があるの。これは本当よ。私も以前何度もそういう経験をしたわ。だから、自信をもって自分の望む方向へ歩いて行った方がいいの。あれこれ考え過ぎて違う方向へ行っては駄目よ。あくまでも素直に自分が一番望む方向へね…」


秋子はそう言って微笑む。


秋子の言葉には説得力があった。

長い人生を歩んできた秋子の言う事はいつも正しい。


しかし真子には一つだけ気がかりな事がある。

それを秋子に聞いてみた。


「工房は…工房はどうしたらいいんでしょうか? 美桜と立ち上げた工房は? このまま投げうってしまってもいいんでしょうか? そんな事私には出来ません……」


真子は悲痛な表情で訴える。

すると秋子は言った。


「美桜ちゃんに話してみたら? 今の気持ちをきちんと伝えてごらんなさい。自分だけで悩んでいないで、あなた達は親友でしょう? だったら今の気持ちをちゃんと正直に伝えてごらんなさい」

「…………」


真子は押し黙る。


確かに真子は美桜に今のこの気持ちを一切話していない。

きっと話せば美桜の事だから受け入れてくれるだろう。でもそれではダメだと思っていた。

美桜の優しさに甘え、自分で始めた事を中途半端で投げ出す事など以ての外だと思っていた。


とはいえ、このままいつまでも黙っている訳にはいかない。

やはり秋子が言うように、一度ちゃんと話すべきなのかもしれない。


そこで真子は秋子に言った。


「わかりました、明日正直に話してみます」

「それがいいわ。勇気を出して偉いわね。でもきっと大丈夫。きっと美桜ちゃんはわかってくれるはずよ」

「はい……」


その時瑠璃子が言った。


「追加で飲み物頼む人ー!」

「あ、私梅酒をいただこうかしら」


秋子が手を挙げて言ったので、真子も、


「私はもう一杯生を下さい」


と言った。

すると拓が、


「そんなに飲んで大丈夫か?」

「いーのいーの。酔い潰れたら拓におんぶしてもらって帰るからー」


真子の言葉にどっと笑いが起きる。


「結婚前から尻に敷かれてるなぁ拓ちゃん」


進一が笑いながら言うと、岸本がぼそっと言う。


「尻に敷かれた方が夫婦仲は上手くいくんですよ」


夫の一言を聞いた瑠璃子が反応する。


「何ー? それじゃあまるで私が恐妻家みたいじゃないのー」


瑠璃子が嘆いているのを見て、再びどっと笑いが起こる。


拓と真子が婚約した記念すべき日の夜は、

仲間達との楽しい語らいであっという間に時間が過ぎていった。

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コメント

1

ユーザー

楽しい素敵な仲間ができて拓君も真子ちゃんも感無量だね☺️💕 そして真子ちゃんはしっかりと秋子さんに相談をしてアドバイスをもらって明日美桜ちゃんに心のうちを打ち明ける… 自分の信じた道と望んだ道、それが美桜ちゃんに通じて真子ちゃんが納得できる回答が出ますように🙏✨✨

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