授業が終わり放課後になると、四人は駅前のカフェを目指した。
拓と敦也は自転車を押しながら、
真子と友里はその後ろを歩きながら、他愛もないお喋りをする。
「それにしても、拓が宮田さんと付き合うとは思ってもいなかったな―」
敦也が言うと、友里も言った。
「ほんとびっくりだよねー、そんな素振りは全くなかったんだもの」
二人の言葉を聞いた拓が言った。
「ハハッ、申し訳ないっ」
「謝る事はないけれど、親友には前もって教えてくれたっていいじゃんか」
「お前に言うと、告白する前に全校生徒に知れ渡っちゃうから言えねーよ」
「そうそう、森田君は口が軽いからねーっ」
友里が追い打ちをかけるように言うと、敦也は、
「参ったな―っ」
と言って頭を掻いた。
そこで三人が声を出して笑う。
カフェでは楽しい会話が繰り広げられた。
学校での出来事や教師の噂話、5月末からの修学旅行の話など話題は尽きない。
それが一段落すると、今度は互いの進路についての話題になる。
四人が通う県立高校は、この辺りでもトップクラスの偏差値だ。
だから一見チャラいように見える拓や敦也も、それなりに将来の事を真剣に考えているようだった。
「へぇー、長谷川君は建築科を受けるんだ。だからデッサンの夏期講習も受けるのか。それって真子と同じところ?」
「それが違うんだなー。俺は横浜」
「そうなんだー残念だね。もうちょっと早く付き合ってたら同じ所に行けたのにね」
「だな」
「えっ、で、森田君は何学部を受けるの?」
友里は調子が出て来たのか、今度は敦也に聞く。
「俺は医学部」
そこで友里が驚く。
真子も驚いていた。
「えっ? 森田君ってお医者さんになるの?」
「うん、うちはオヤジが開業医だからね。後を継がなくちゃだし」
そこで友里が真子の方をチラリと見て、腕で真子の肘を突いた。
どうやらこれはかなり乗り気の様だ。
拓も成績優秀だったが、敦也もそれと同じくらい優秀だ。
そこで敦也が真子に聞いた。
「宮田さんは心臓の病気なんだって? じゃあ病院は茅ケ崎医大病院?」
「そう。よく分かったね」
「宮田さんの病気の事を拓から聞いて、昨日オヤジに聞いてみたんだ。この辺りで心臓の名医がいるのはどこかって。でももう
既にそこに通ってたんだな…」
敦也は照れたように笑った。
しかし真子は嬉しかった。
友人の病気を知り、敦也は医者である父親にわざわざ聞いてくれたのだ。
そんな敦也の思いやりに感激してしまう。
その時真子は思った。敦也はきっと良い医者になるだろうと。
すると今度は拓が口を開く。
「敦也は一見するとチャラいけど、実はしっかり者なんだ。だから医者には向いていると思う」
拓の言葉に照れた敦也は、あえて食ってかかるように言った。
「ハッ? 一見するとチャラいっていうのは余計だ」
そこで女子二人がクスクスと笑う。
そこで真子が聞いた。
「医学部って難しいんでしょう?」
「うん。うちの親父が金持ちだったら裏口入学で一発で入れるのに、そんな金はないって言われたからさぁ…。だから現役で受
からなかったら受かるまで浪人だよ」
「へー、偉いなぁ」
「まあ医者の家に生まれたサガってやつですよ……」
敦也はそう言って笑った。
「でも敦也はきっと一発で合格すると思うよ。コイツやる時はちゃんとやるからね」
「ありがとう拓君♡ 現役合格できるようにしっかりお祈りしてちょーだい♡」
敦也がふざけて言ったので、拓と真子は声を出して笑った。
しかし、先ほどから友里は静かなままだ。
「友里? どうしたの?」
そこで友里は思いつめたような顏をして敦也に言った。
「森田君、私と付き合って下さいっ!」
突然の友里の言葉に三人は驚いた。
特に一番驚いていたのは敦也だった。
「えっ? マジで?」
「うん。いつも付き合ってって言ってくれてたのに、私冗談だと思ってつい冷たくしちゃって…でも今話しているのを見て、森
田君って結構真面目なんだなって思えてきちゃって…」
友里の言葉を聞いた敦也は、感無量と言った様子で言葉を失っている。
すると拓が助け舟を出す。
「斉藤さん、こいつね、ほんと根は超がつくくらい真面目だよ。あと結構一途だしね。それは俺が保証する」
それを聞いた友里は、さらに敦也に言った。
「森田君、どうか私を彼女にして下さい。受験勉強の邪魔はしないように気をつけます。だからどうか……」
「おい、敦也……」
これ以上女に恥をかかすなという意味で、拓が敦也に声をかける。
「もっ、もちろんっ! 大歓迎ですっ! よろしくお願いしますっ!」
敦也はそう言って友里に頭を下げた。
そこで真子がパチパチと拍手をする。
「やったー、友里達もカップル成立ー!」
「だな」
拓と真子は嬉しそうに微笑みを交わした。