深夜1時、住宅街の外れにある小さな公園。外灯は一つだけで、ぼんやりと砂場とブランコを照らしていた。
そこへ足を踏み入れるのは、背の高い男子大学生。
パーカーにジャージパンツ、足元はランニングシューズ。髪は短めのスポーツ刈りで、首には銀色のチェーン。名前は高瀬陸(たかせ りく)、二十歳。
ポケットのスマホが震える。
《声を出すな》
見知らぬ番号の短文に目を細めながら、ブランコに腰を下ろす。
その瞬間、周囲の音がふっと消えた。風も虫の声も、遠くの車の音もない。
耳を澄ますほど、沈黙が重くのしかかる。
視界の端、街灯の明かりにかすかに揺れる黒い影が一つ——いや、二つ、三つと増えていく。
影は人の形をしているが、足元が地面についていない。
陸が立ち上がろうとした瞬間、影の一つが真横に滑り寄り、耳元に口だけの形をした闇を近づけた。
声を出さないよう歯を食いしばると、口の形が歪み、影たちは静かに地面へ吸い込まれていった。
音が戻ったとき、ブランコの鎖が小さく揺れていた。
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