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コメント
1件
ああ、もうこの一話だけでじんわり温かくなりました…!男三人で旅の合間に過ごす夜の空気感がすごく丁寧で、シュンタが「ちゃんと帰りたい場所ができたんやろな」って静かに言うところ、すごく好きです。ジュウタロウの「結婚したら尻に敷かれる」発言にも思わず笑っちゃいました。普段はクールなキャラ同士が、夜にぽつりぽつり本音をこぼす感じ、すごく心地よかったです。comiさん、素敵な時間をありがとうございます🤍
第十二章 ラディスへの帰還
第九話 男たちの夜
ジントとダイチを見送ったあと、3人はラディスでも比較的大きな宿屋の前へ辿り着いた。
木造三階建て。
入口には暖かな灯り。
裏手には広めの厩舎まで備わっている。
「おぉ〜、ええ宿やん!」
シュンタが嬉しそうに馬から降りる。
「今日はふかふかのベッドで寝れる〜!」
「ちゃんと静かに寝ろよ」
ジュウタロウがそう言いながら馬を預ける。
受付を済ませたハヤトが2人の元へ戻ってきた。
鍵を顔の前で揺らしながら
「同室にした」
そう言いながらニっと笑う。
ジュウタロウが露骨に眉をひそめた。
「……同室か」
「え、何その嫌そうな顔」
シュンタが笑う。
「いや、うるさそうだなと思っただけだ」
「ジュウが静かすぎるんや!」
ハヤトが苦笑する。
「まあまあ。たまには3人っていうのも悪くないだろう?」
階段を昇りながら軽い会話を交わす。
扉を開け、部屋を見回した。
3人でも十分な広さの室内。
綺麗に整えられた、三つ並んだベッド。
大きめのふかふかのソファに、艶のある木のローテブル。
シュンタは目を輝かせる。
「お泊まり会みたいやな!」
「お前だけテンションが違う」
ジュウタロウはため息を吐きながら窓辺へ向かう。
ラディスの夜景が広がっていた。
静かな灯り。
遠くに見える教会の塔。
隣でその景色を眺めながら、ハヤトがふと口を開く。
「しかし……随分、空気が変わったな」
「ん?何が?」
シュンタがベッドへ寝転がりながら聞く。
ハヤトは窓の外へ視線を向け、少しだけ笑う。
「ジントとダイチだよ」
その言葉にジュウタロウも静かに頷く。
「……確かにな」
シュンタはすぐににやりと笑った。
「やっぱそう思う!?」
「お前は本当に楽しそうだな」
「いや〜、ええやん幼馴染!」
「分かりやすすぎるだろう、あれは」
ジュウタロウが淡々と言う。
ハヤトも肩を竦めた。
「ダイチなんて、途中から露骨だったぞ」
「さっきハヤトが送る言うた時の顔、凄かったもんな!」
シュンタが笑う。
「“いや俺が送る!!”って」
真似まで始める。
「やめろ」
ジュウタロウが冷静に止める。
だがその口元には、僅かな笑みが浮かんでいた。
「でもさぁ」
シュンタが天井を見上げる。
「なんか、良かったな」
その声は、いつもの明るさより少しだけ静かだった。
「二人とも、出会った頃とは全然違うもんな」
「特にジンちゃんは」
ハヤトは穏やかに目を細める。
月の里。
故郷。
祖母。
そして、ダイチ。
長い間閉じ込めていたものを、少しずつ取り戻している。
「前はさ」
シュンタがぽつりと言った。
「ジンちゃん、自分がここにおってええんかなって顔してた気がする」
部屋が静かになる。
「でも今は違うよな」
柔らかく笑う。
「ちゃんと帰りたい場所ができたんやろな」
「それに……ホンマに”生きたい”って思っとる気がする」
ジュウタロウは静かに窓の外を見た。
「だからこそ」
低い声。
「これからが怖い」
その言葉にハヤトの表情も少し引き締まる。
教会。
帝国。
月蝕の子。
まだ何も終わってはいない。
けれどだからこそ。
今ある穏やかな時間を大切にしたかった。
「……まあ」
ハヤトが空気を変えるように笑う。
「今日は考えるのをやめよう」
「賛成〜!」
シュンタが勢いよく手を挙げる。
「俺もう眠い!」
「さっきまで元気だっただろ」
「美味い飯食ったから満足したんや」
「単純だな」
小さな笑い声が響いた。
-–
荷物を片付け、寝る準備を終えた3人はそれぞれベッドへ腰を下ろした。
窓の外ではラディスの夜景が静かに広がっている。
シュンタが寝転びながら呟いた。
「なんか、この3人で居るのも久々な気するわ」
「そうだな」
ジュウタロウが頷く。
「帝国で色々調べていた時以来か」
「……ああ」
ハヤトも懐かしそうに笑った。
「ここ数ヶ月で色々ありすぎたな」
帝国。
禁書。
襲撃。
白霧山。
月の里。
短い期間とは思えないほど、濃密な時間だった。
「ようやくここまで来たな……」
ハヤトが小さく目を閉じる。
しばらく静かな時間が流れる。
するとシュンタがまた口を開いた。
「にしてもラディス、ええ街やな」
柔らかな声。
「ジンちゃんのおばあちゃんとか、ダイちゃんの家族とか……」
「ほんまあったかいわ」
ジュウタロウも天井を見上げながら頷いた。
「……良い家族だと思う」
ふと。
自分の家族の顔が浮かぶ。
厳格な父。
明るい妹。
普段は距離を感じることもある。
だが離れてみると、確かに大切な存在だった。
僅かに口元が緩む。
「でも」
シュンタが突然吹き出した。
「ダイチの姉ちゃん、アズールさん、あんな美人やのになかなか強烈やったなぁ!」
ハヤトも笑う。
「ああ」
「ダイチとの掛け合いは、まるでシュンタみたいだったな」
「えぇ!? 俺ぇ!?」
シュンタが飛び起きる。
「あの姉ちゃんには敵う気せえへんわ!」
「ははっ!さすがのシュンタも、アズール嬢には手を出せないんだな」
ハヤトがイタズラっぽく笑う。
「なんやその言い方!」
シュンタは少しムッとする。
「オレはセレネちゃんみたいな子がタイプなんや!」
「誰にでも声掛けるわけちゃうで!」
「そうなのか」
ジュウタロウはちらっとシュンタの方を見る。
「息を吐くように口説き文句を吐いているようだがな」
「ジュウひどっ!オレどんなイメージなん!?」
部屋に三人の笑い声が響く。
「まあでも、アズール嬢ならシュンタを上手く手懐けられそうなのにな」
ハヤトのその言葉にジュウタロウも静かに頷く。
「結婚したら尻に敷かれるだろうな」
その瞬間、ハヤトとシュンタの動きが止まる。
「……え?」
「ジュウも結婚とか考えるんや!?」
「意外だな」
二人の視線が集まる。
ジュウタロウは涼しい顔のままだった。
「……別に深く考えたことはない」
少し間を置く。
「だが……憧れのようなものはある」
「へぇ〜」
シュンタがにやにやする。
「好きな子とかおらんかったん?」
「ああ」
ジュウタロウはあっさり頷いた。
「俺に近寄ってくる女性はほとんどいなかったからな」
「まあジュウタロウはそうだろうな」
ハヤトが苦笑する。
王族。
氷晶の王子。
圧倒的な美貌に近寄り難い雰囲気。
納得しかない。
「俺も似たようなものだ」
ハヤトがぽつりと続けた。
「俺の場合は、相手を見る前に立場を見ることが多かったからな」
皇子。
責任。
国。
簡単に誰かを好きになれる立場ではなかった。
「皇子様とか王子様って大変やねぇ」
シュンタがしみじみ呟く。
するとハヤトが少し悪戯っぽく笑った。
「そう言うシュンタこそどうなんだ?」
「え?」
「好きな相手はいなかったのか?」
「俺ぇ?」
シュンタはいつものように髪をかき上げる。
「まぁ、こんな色男やからな?」
「自分で言うのか」
ジュウタロウが呆れる。
「それなりにモテたで?」
「でもなぁ……」
シュンタは天井を見上げた。
少しだけ笑顔が寂しくなる。
「小さい頃から商団の中で育って、旅ばっかりやったからな」
「好きな子できても、ずっと一緒にはおられへんし」
静かな声。
「俺な、旅好きやし、商団のみんなも家族みたいなもんやねん」
「でも……」
少し笑う。
「帰ったら昔と同じ顔で迎えてくれる場所って」
「やっぱええなぁって思うわ」
その言葉に部屋が少し静かになる。
そして、ハヤトが優しく笑った。
「……そうだな」
「こう見えてシュンタって、寂しがり屋の甘えん坊だもんな」
「っ!?」
シュンタが飛び起きる。
「や、やめぇや!!」
ジュウタロウもため息混じりに言った。
「全く……」
「そういうところが、お前の良いところなんだろうな」
「え!? 二人とも何!?」
シュンタが顔を赤くする。
だがその表情には、ちゃんと笑顔が戻っていた。
笑い声が小さく響く。
窓の外ではラディスの街を月明かりが静かに照らしていた。
五人それぞれが抱えてきたものを、
少しずつほどいていくように。
男たちの夜はゆっくりと更けていった。