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第十二章 ラディスへの帰還
第十話 賑やかな朝
翌朝。
ソルト家の食堂には、いつものように穏やかな朝の光が差し込んでいた。
焼き立てのパンの香り。
温かなスープ。
使用人達が忙しなく朝食を運んでいる。
そんな中。
食堂へ現れたダイチを見た瞬間、アズールが、にやぁ……っと意味深に笑った。
「……」
ダイチの目の下にはくっきりと隈ができている。
赤い目。
どこか気の抜けたような表情。
明らかな寝不足。
けれどその理由を、ダイチ自身が一番認めたくなかった。
「あらあら〜?」
アズールが頬杖をつきながら楽しそうに声を掛ける。
「そんなに眠れないくらい、昨日何かすごいことがあったんだぁ?」
「……」
ダイチは無言で席へ着いた。
「姉ちゃん朝からうっさいわ……」
完全に気力がない。
しかしそんな兄の様子も気にせず、
シアンが元気よく身を乗り出した。
「兄ちゃん!」
「んー?」
「オレ剣術うまくなったんだよ! 後で稽古見てよ!」
「ええよ」
すると今度はマリン。
「私も魔法使えるようになったのよ!」
得意げな表情。
「ダイチ兄ちゃん、後で見せてあげるね!」
「おいマリン!俺が先だからな!」
「え〜!?」
「食後にすぐ剣の稽古なんて良くないでしょ!」
マリンがむっとする。
「私が先よ!」
「なんや二人とも〜」
ダイチは思わず笑った。
「ちゃんと二人とも見るから安心せえって」
「ほんと!?」
「やったー!」
はしゃぐ二人。
レイラが困ったように笑う。
「もう! あんた達はまたケンカして!」
一方コバルトは、いつものように新聞へ目を通しながらお茶を飲んでいた。
「まあ、いつものことだ」
家族で過ごす穏やかな朝。
そんな中。
アズールが突然、キラキラした青い瞳をダイチへ向けた。
「ねね!」
嫌な予感。
「今日は皇子様達はいらっしゃらないの!?」
「……」
ダイチは深いため息を吐いた。
「姉ちゃんには手の届かん相手やろ」
「えー!わかんないでしょ!?」
アズールは全く諦めていない。
「とりあえずまた必ずお連れするのよ!」
「なんでやねん……」
賑やかな笑い声が食堂へ広がる。
朝食を終えたあと、ダイチは自室へ戻った。
扉を閉める。
昨夜に比べれば少しだけ気持ちは落ち着いていた。
だが、ジントのことを考えるだけで胸がぎゅうっと苦しくなる。
「……はぁ」
ふと机へ置かれたままの秘密基地の地図が目に入った。
自然と口元が緩む。
「……後でジントと行きたいな」
脳裏へ浮かぶ。
大きな木の根元に作った、二人だけの秘密の場所。
木々のざわめき。
小鳥のさえずり。
湿った土の匂い。
落ち葉を踏む感触。
木の幹を一生懸命掘っていたジントの横顔。
オレの下手な字を見て笑った顔。
あの頃から。
ずっと、この笑顔が好きだった。
懐かしい記憶。
ダイチは静かに窓を開けた。
ひやりとした風が頬を撫でる。
朝の柔らかな光が、秘密基地のある森を照らしていた。
まるでダイチを誘うように、静かに輝いている。
その時。
――コンコン。
部屋を小さくノックする音が響いた。
「ダイチ兄ちゃん?」
可愛らしい声。
その瞬間、自然とダイチの頬が緩む。
扉を開けると、そこにはマリンが立っていた。
群青色より少し明るい髪。
輝く大きな青い瞳。
2年前より随分お姉さんらしくなった。
けれどまだ幼さの残る表情が愛らしい。
マリンはにこにこしながら言う。
「ねえ兄ちゃん! 今お時間いいかしら?」
「ん?」
「私の魔法の練習見て下さい!」
その言葉にダイチは思わず笑った。
「ええよー」
ぽんぽんと頭を撫でる。
マリンは嬉しそうに笑った。
二人で庭の演習場へ向かう。
するとそこにはすでにシアンがいた。
練習用の木刀を膝に乗せ、剣の手入れをしている。
二人に気付くと、ぱっと顔を上げた。
「あっ! マリンずるいぞ!」
勢いよく立ち上がる。
「俺が先だったのに!」
「私が先にダイチ兄ちゃんに声掛けたんだからねーだ!」
マリンも負けていない。
小競り合いを始める二人を見て、ダイチは思わず吹き出した。
「ははっ、ちゃんと二人とも見てやるからさ」
「じゃあ私からね!」
マリンは得意げに胸を張る。
そして腰に差していた小さな杖型の魔道具を取り出した。
ぎゅっと目を閉じ集中する。
「……えいっ!」
小さな掛け声と共に杖を振る。
すると杖の先から、細い水流が飛び出した。
真っ直ぐ数メートル先の木へ当たる。
「……えっ」
ダイチが目を丸くする。
「マリン……すごいやん!!」
素直に驚いた声。
「俺でもこんなんできへんで!?」
マリンは得意満面だった。
「先生にも魔法の才能あるって褒められたのよ!」
だがそこでシアンが意地悪そうに口を挟む。
「確かに魔法使えるのはすごいけどさ」
にやりと口角を上げる
「そんなちゃっちい水だけじゃ魔物は倒せないだろ?」
「なによっ!」
マリンがむっとする。
「自分が使えないから悔しいんでしょ!」
「俺は剣の方が得意だからな!」
シアンは勢いよく木刀を構えた。
「兄ちゃん、見てて!」
そのまま型を披露し始める。
踏み込み。
振り。
構え。
まだ荒削りではある。
だが動きそのものは悪くない。
「おぉ〜!」
ダイチが感心したように声を上げる。
「シアンもやるやん!」
「ほんと!?」
「俺より絶対上手くなるで!」
その言葉にシアンの顔がぱっと明るくなる。
「せや!」
ダイチが思い付いたように言った。
「今度時間ある時に、ハヤトかジュウタロウに教えてもらおか!」
「えっ!?」
シアンが飛び跳ねる。
「皇子様達に稽古つけてもらえるの!?」
「えー! 私も教えてもらいたい!」
マリンも負けじと声を上げる。
ダイチは笑った。
「今度聞いてみるからな」
「やったぁ!」
そんなやり取りをしているうちに、
気付けば日はかなり高くなっていた。
ダイチは二人へ向き直る。
「そろそろ兄ちゃん行かなあかんから、また後でな」
少し名残惜しそうに笑う。
「練習頑張るんやで!」
そう言って二人の頭をぽんぽんと撫でた。
「うん!」
「またね兄ちゃん!」
演習場を後にする。
そのまま玄関へ向かうと、レオンが待っていた。
「今日は帰り遅くなるから」
「かしこまりました」
使用人が馬を連れてくる。
ダイチは軽く飛び乗った。
そして小さく息を吐く。
「……よし!」
拳を握る。
「大丈夫。いつも通りや」
自分へ言い聞かせるように呟き、馬を走らせた。
コメント
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あ、読んだ読んだ!!😭💕第39話「賑やかな朝」、めっちゃ良い回だった…!! 朝からアズールにからかわれて寝不足バレてるダイチ、もう可愛すぎん?笑 でもマリンとシアンの兄弟げんか、ほっこりした〜!!「ちゃんと二人とも見るから安心せえって」って優しすぎるでしょダイチ兄ちゃん…😢✨ あと秘密基地の地図見て「あの頃からずっと、この笑顔が好きだった」っての、胸がぎゅってなったよ…!ジントとの思い出エモすぎて泣くかと思った😭 最後の「大丈夫。いつも通りや」って自分に言い聞かせるダイチ、かっこよかった!!続き気になる〜!!🌸
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