テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
きょうふ
115
comi
778
#可愛い
トド村
37
「さぁ、魔力を込めながら私の背中にオイルを塗ってごらん」
白砂の上にうつ伏せに寝そべった楓子さんが、気だるげに指示を出す。
私は緊張で指先を震わせながら、彼女の背中に透明なオイルを垂らした。
じわり、と手のひらを這わせる。
透明なオイルが楓子さんの白い肌に細い川を描く。
――なめらか。そして、驚くほどに熱い。
指先から伝わる吸い付くような白肌の弾力に、私の奥底でドクンッ、と魔力の胎動が激しく跳ねた。
頭のてっぺんに乗せたバターが、太陽の強烈な熱でじわじわと溶け、染み込んでいくような濃厚なイメージ。
そのドロリとした魔力を腕へと流し、手のひらを通じて楓子さんの肉体へとそっと注ぎ込んでいく。
「……んっ……上手いよ、地獄子ちゃん……」
「本当ですか……っ!」
できた。という凄まじい達成感に包まれ、私は思わず天を見上げる。
だが、真夏の太陽に目を灼かれ、クラリと脳が揺れた拍子に、私はずるりと手のひらを滑らせてしまった。
ふにゅっ。
「……ひゃんっ!?」
楓子さんが短く、切ない声を漏らす。
気づくと私は楓子さんのモノキニの脇から楓子さんの胸に手を滑らせていた。
「ひゃっ、ごめんなさっ!」
脳内が真っ白になり、パニックで魔力コントロールが完全に瓦解する。
私の手から、せき止めていた暴力的な魔力が一気に彼女の胸へと流れ込む。
「地獄子!! すぐに魔力制御をしろ!!」
空から小守が引きつった声で叫んだが、もう手遅れだった。
ぱあんっ!!!!
と、楓子さんの身体が爆音を響かせて派手に弾け飛んだ。
「嘘……でしょ……?」
呆然と目を見開き、べっとりとオイルと血に濡れた自分の両手を見つめる。
殺した?私が?
「楓子さん!?楓子さん!!!」
天国美が悲鳴を上げながら、水着のフリルを振り乱して駆け寄ってくる。
『落ち着いて君達、すまないがそこに散った私の肉片を集めてくれ』
楓子さんの涼やかな声が、脳内に響いた。
言われるがままにピチピチと跳ねるピンク色の肉片をかき集める。
かき集められた肉片はうじゅうじゅと蠢きながら、まるで強力な磁石のように引き合い、猛スピードで合体し始めた。
「ふぅ……地獄子ちゃんの魔力が凄すぎて、蘇生にほとんどの魔力を使ってしまったよ」
何事もなかったかのように、しっとりとした美肌を完全再生させて楓子さんが起き上がる。
無事に復活したとはいえ、憧れの楓子さんをマッサージ一つで爆破してしまった事実に、私は激しい恐怖でガタガタと震えていた。
私のせいでまた誰かが傷つくかもしれない。
もし、これから先だれかとキスなんてした日には、その人間を内側から木端微塵に破裂させてしまうのではないか。
やっぱり私には真実の愛を見つけるなんて無理だ。
自分の魔力に怯え、砂浜で縮こまる。
その時、私の尻を――すぱぁぁぁんっ!!!!
と、小守が容赦なくひっぱたく。
「痛った!? なにすんのよ小守!?」
「なにぼさっとしてんだよ?次はオレにオイルを塗れ」
小守が、滞空しながら腕組みし、私を見下ろす。
「でも……」
「また失敗したら、か?」
すべてを見透かしたような、鋭い瞳が私を射抜く。
「あほか。失敗ぐらい誰にでもあんだろ? それともお前は、他人の失敗をいつまでも非難するクズなのか?……さっさと塗れ、日焼けしちゃうだろーが」
ぶっきらぼうに言い放ち、小守は私の目の前に、まだ少し幼さの残る華奢な背中を無防備に預けてくれた。
私は意を決し、小守の背中にオイルを垂らした。
頭のてっぺんに乗せたバターが、太陽の熱でじわじわ溶けて身体の芯へと染み込んでいくイメージ……!!
私は壊れ物を触るように、何度も心の中で復唱しながら、小守の滑らかな背中に慎重に手を滑らせる。
「いってーな地獄子!! もっと手のひら全体で、やさしく包み込むようにしやがれ!!」
「ご、ごめん。これくらい……?」
「……ふん」
悪態をつきながらも、小守は私に背中を預けてくれる。
じわじわと、私の穏やかな魔力が彼女の薄い皮膚の奥へと染み込んでいくのが分かった。
「……うん、合格だ。調子はどうだい、小守?」
楓子さんが声をかけると、小守は砂浜からバッと跳ね起き、いつもより一回り大きく、禍々しいほどに美しい漆黒の翼を背中から爆発させるように広げた。
そのまま一気に大空へと飛び立ち、ツバメのように鮮烈な宙返りを描いて見せ、スタッと砂浜に着地する。
「絶好調っ!!」
小守が白い八重歯をキラリと覗かせ満面の笑みで私にピースサインをくれる。
「ご主人様!! 私も!! 私もお願いします!!」
天国美が砂を盛大に跳ね上げながら砂浜へ豪快にダイブした。
心なしか犬のような尻尾が見える気がする。
「……爆発してもしらないわよ」
ため息をつきつつも、私は天国美の背中にもたっぷりとオイルを伸ばしてあげた。
「ふふーん、さらに美少女になってしまいました!」
全身の肌をこれでもかと艶めかせた天国美が、くねりと腰をくねらせてセクシーポーズを取る。
「ふふ、ほんとだね」
楓子さんが目を細めると、天国美はセクシーポーズのまま固まり赤面した。
「さて、次はいよいよ魔力の完全掌握だ。君にはこのビーチボールを膨らませてもらうよ」
楓子さんが私に、ペッタンコに萎んだゴムのビーチボールを差し出す。
「分かりました」
私が口をつけようとする。
「ちょっと待って。空気ではなく魔力で膨らませるんだ。今からお手本を見せるから、よーく見ててね」
と楓子さんの美しい指が私の唇を遮った。
楓子さんが両手でしぼんだボールを挟むように持つと、彼女の身体から溢れ出た濃厚な魔力が注がれていく。
ぐんぐん、ぐんぐんとゴムが引き伸ばされ、あっという間に張り詰めた見事な球体へと膨らんだ。
「さ、一緒にやってみよっか」
今度は楓子さんが、私の真後ろから隙間なくぴったりと身体を密着させてくる。
しっとりとした黒髪が私の鎖骨あたりにベールのようにかかり、耳元でふわりと甘い息遣いがする。
本物の大人の女性の色香に、私の心臓はうるさいほどに跳ね上がる。
「まずは、私の魔力の波に、君の波を合わせてみて――」
包み込まれるような感覚の中、恐る恐る魔力を注ぎ込むと、ボールが内側からじわじわと膨らみ始める。
「そう、いい感じ。あとはこれを繰り返して感覚を覚えていこう」
「…….はいっ!!」
私はそれから、加減を間違えてボールを破裂させたり、ぐにゃぐにゃにボールを歪ませたりしながら、魔力のコントロールを必死に身体に叩き込んでいった。
「よし、せっかくだし皆でビーチバレーしよっか」
「やったーー!!!」
楓子さんの提案に天国美が3mくらい跳躍する。
小守と私、天国美と楓子さんのペアに分かれて、超次元ビーチバレーが始まった。
「滞空してんのチートじゃないですか!?降りてきなさい!!」
天国美が小守を指差し文句を垂れる。
「へっ、文句があんならおめーも飛べばいーじゃねーかバーカ!!」
「ぶっ殺す!!」
「やれるもんならやってみなぁ!!!」
汗をきらめかせながら、小守と天国美が激しいスパイクの応酬を繰り広げる。
一方で私はといえば、完全に足手まといだった。
これまでの人生で、まともにレシーブが出来た試しがない。ボールも、会話も。
「しっかりしろ地獄子!! 負けたら承知しねーぞ!!!」
小守が翼をはためかせながら腕をぶんぶん振り回す。
「しっかりしてください楓子さん!! あのメスガキは一度しっかりわからせないといけません!!」
ビーチボールを抱えた天国美が小守を激しく睨みつける。
「はは、すまないねぇ……さっきの蘇生魔法で、魔力を大方使い切っちゃってね…..」
と、楓子さんが額の汗を拭いながら弱り切った笑みを浮かべる。
「ふんっ、ならば私の最大火力で、あのメスガキを粉砕してやります!! ――喰らえ!! 天魔覆滅・神聖断罪サーブ(エンジェル・ルシファー・エクスプロージョンサーブ)ーーーーーッ!!!!」
「技名ダサ!!??」
私が技名のダサさに驚いたのも束の間。
天国美が全魔力を右腕に込め、肉厚な太ももをしならせて凄まじい跳躍からサーブを放つ。
しかし、放たれたボールは軌道を外れ、小守ではなく、私の鼻っ柱にクリーンヒットした。
「ぎゃいんっ!?」
凄まじい衝撃に私の頭がのけぞり、鼻からブシャァッ!!!!と鮮血が噴き出す。
その血がビーチボールにべっとりと付着した瞬間、ボールは不気味な紫色に明滅し、禍々しい魔力を放ち始めた。そのまま放物線を描いて海へと落ち――ドボォォォォォンッ!!!!
と、大爆発を起こして大量の水柱を吹き上げる。
ゴゴゴゴゴ……とビーチ全体が不気味に震える。
「らに!?らんらの!!?」
鼻血を拭いながらわたしが海を見る。
「ははっ……まずいかもね……」
楓子さんが冷や汗を垂らす。
海が急に静かになる。
島の鳥達が一斉に、まるで何かから逃げるように飛び立つ。
海面を割って、ぬるり、ぬるりと這い出てきたのは、吸盤の一つ一つが人間の頭ほどもある、家並みに巨大な大タコの姿だった。
タイムリミットまであと45日。
(後編へ続く)
コメント
1件
うわっ…第11話、読了したよ……🥀 温泉回かと思いきや、まさか楓子さんを爆破しちゃうとは思わなかった(笑)しかもそれが魔力暴走っていう地獄子ちゃんの持病みたいなもので、それがまた切ないよね。「キスしたら相手を破裂させるかも」って怯えるシーン、胸がギュッてなったよ。 でもその後の小守の「さっさと塗れ」がめっちゃよかった!ツンデレで無防備に背中預けるとかずるすぎるよ…! 最後の大タコ出現も含めて、次が気になりすぎる!! トド村さん、今回もど真ん中きたね…🤍