レストランに入り、窓際の席に向かい合って座った二人は、料理を注文してドリンクバーから飲み物を持ってくる。
そして、会話を始めた。
「で、転職ってどうするの?」
「今、窯元でスタッフを募集しているところを探してる」
「そっかあ。美宇は陶芸専攻だったもんね……でも、窯元って地方に多いんじゃない?」
「うん、そうだね」
「この辺だと、栃木とか茨城とか?」
「その辺りも見たけど、なんかピンと来なくて……」
「じゃあ、どこ? 西の方とか?」
「ううん、今応募してるのは北海道」
「北海道!?」
麻友は驚いて声を上げた。
「北海道に、陶芸で有名な窯元ってあるの?」
「ううん、そこは陶芸家個人の工房なの」
「私、油絵専攻だったから陶芸のことはよくわからないんだけど、有名な窯元じゃなくても陶芸家っているの?」
「もちろんいるよ。個人でやってる人も多いよ」
「へぇ、そうなんだ~」
そこで美宇は、『青野朔也』のホームページを麻友に見せた。
「この人なんだ」
麻友は身を乗り出して美宇の携帯を覗き込んだ。
「わぁ、素敵! こんなきれいな青色、初めて見たわ。『オホーツクブルー』っていう響きも、なんかロマンチックね」
「でしょ? 実は高校時代に、一度この人の作品展を見たことがあるんだ。それで、この前また偶然作品展を見かけて、寄ってみたの」
「えー、すごい偶然!」
「うん。ちょっと運命感じちゃった」
「で、この『青野朔也』さんって、どんな人なの?」
「プロフィールに詳しいことは書かれてないけど、陶芸歴35年ってあるから、けっこう年配の人かも」
「じゃあ、私たちの父親くらいの年齢かな?」
「たぶんそうだと思う」
「賞もいろいろ取ってるんだね……。写真は? 受賞歴があるなら、写真くらいあるでしょ? 検索してみた?」
「それが、一枚も出てこないの。なんか、そういう場所に出るのが嫌いな人みたい」
「芸術家ってそういう人多いよね~。でも、そんな人のところにいきなり行って大丈夫? 北海道なんでしょ? 北海道のどこ?」
「斜里町ってところ。知床の近くだよ」
「えーっ、北海道って聞いたから、てっきり札幌のあたりかと思ってた」
「ふふ、びっくりでしょ?」
「うん……」
そのとき、注文していたパスタが運ばれてきたので、二人は一旦会話を中断した。
パスタを食べながら、再び話し始める。
「ねぇ、美宇……そんな最果ての地へ行こうと思ったのって、やっぱり沢渡先生のことが関係してるの?」
「うーん……それもあるかもしれないけど、それだけじゃない気もする」
「そっか。環境を変えるのはいいことだし、本当にやりたいことに挑戦するのもアリだと思うよ。でも、ちょっと遠すぎない? 気軽に会えなくなるじゃん」
「海外に行くわけじゃないし、たまにはこっちにも戻ってくるよ。戻ったらすぐ連絡するし」
「もちろん連絡してよ! あ、でも、私が、知床観光に行くっていう手もあるか!」
「そうそう。お金を貯めて会いに来て」
二人は同時にクスクスと笑った。
「でも、まだ採用されたわけじゃないし……有名な陶芸家だから、応募も多いと思う」
「そうかな~。だって、最果ての地だよ。応募するのは勇者だけでしょ」
「ひど~い、すごい『僻地』みたいな言い方して~」
「あはは、美宇だって行ったことないくせに、知ったかぶりして」
二人はまた笑い声を上げた。
そのとき、テーブルの上に置いていた美宇の携帯が鳴った。
すぐに確認すると、一通のメールが届いていた。
「何? 沢渡?」
「ううん、違う。メールが来たみたい」
「なんだ」
麻友は、そう言ってパスタを食べ始めた。
気になった美宇がメールを開くと、件名に『青野朔也です』と書いてあったので、身体に緊張が走った。
「どうしたの?」
「青野さんからメールが来た」
「嘘! 早く読んでみなよ!」
「う、うん……」
美宇は震える手でメールを開き、本文を読んだ。そこには、こう書かれていた。
『この度は、ご応募ありがとうございました。こちらは北海道のかなり僻地ですが、それでも大丈夫でしょうか? もし問題なければ、ぜひスタッフとして来ていただければと思います』
その文を見て呆然としている美宇から、麻友が携帯を奪い取り、メールを読んだ。
「美宇っ! おめでとう! 採用だって! すごいじゃん!」
「う……うん」
「こら、美宇、しっかりしてよ! 新しい門出が決まったんだよ! やったね! これから修業を積んで立派な陶芸家になって、あいつを見返してやろうよ!」
「う……うん、そうだね……」
「そうと決まったら、お祝いしなくちゃ! ワインワイン、白にする? 赤にする? ムール貝とかチキンも頼んじゃおっかな~」
はしゃぐ麻友の声を耳にしながら、美宇は採用されたことがまだ信じられず、ただぼんやりと座っていた。
コメント
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採用おめでとうございます🎊 やっぱり運命ですね⁉️ これからの展開ぎすごく楽しみです😊
美宇ちゃんヽ(〃'▽'〃)ノ☆゚'・:*☆オメデトォ♪ 確かに父親くらいの年齢😁 でも愛に歳の差なんてないのよ〜🩵 相性⤴︎相性⤴︎💙 女は愛するより愛された方が幸せと聞いたことがあるから、大人の男の包容力で陶芸も心もオホーツクのような深愛に包まれましょう🎀 あぁ〜早く青野朔也40歳にお会いしたいわ〜•.❥•.❥•.❥

今後の展開がちょー楽しみ。瑠璃ちゃんを思い出します。