テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
くつしたのあな
317
放課後前。
まだ人が残っている時間。
廊下は完全には空いていない。
中途半端に、誰かが通る。
「ちょっと手伝え」
軽い声。
後ろから。
断る間もなく、道具を持たされる。
バケツ。
雑巾。
「水、あっち」
指で示される。
女子トイレの方。
「無理」
小さく言う。
「いいから」
押される。
背中を軽く。
逃げるほどじゃない。
でも、止まれない。
「誰もいねえって」
続く。
笑いながら。
中を一瞬だけ見る。
静か。
気配がない。
その一瞬で、判断が遅れる。
「ほら早く」
急かされる。
入る。
数歩。
その瞬間。
後ろで声。
「じゃ、頼んだわ」
振り返る。
もういない。
一人。
中。
出ようとする。
でも、足が止まる。
ここから出るタイミング。
もう、分からない。
奥で、水を出す。
形だけでも。
そのとき。
足音。
外から。
複数。
女子の声。
近づく。
「ねえ今誰か入ったよね?」
「え、うそ」
止まる。
完全に。
逃げるタイミングを失う。
足音が中に入る。
視線がぶつかる。
一瞬で、空気が変わる。
「は?」
はっきりした声。
「なんでいんの?」
「え、無理なんだけど」
別の声。
後ずさる。
一歩。
でも、それが逆に距離を詰める。
「出て」
強い声。
「早く」
重なる。
「違う」
出る。
反射で。
「何が?」
即座に返される。
「入れられて」
言う。
はっきり。
一瞬の間。
「誰に?」
詰まる。
後ろを見る。
誰もいない。
当然。
「は?」
女子の声。
トーンが下がる。
「言い訳?」
「普通にキモいんだけど」
はっきり言われる。
「いやほんと無理」
「意味わかんない」
重なる。
「……違う」
もう一度言う。
でも弱い。
「じゃあなんでここにいるの?」
答えが出ない。
説明できない。
「黙ってる時点でアウトでしょ」
「最悪なんだけど」
言葉が、一方的に決まっていく。
「出て」
もう一度。
今度は強く。
逃げ場を与えない形で。
動く。
出口へ。
すれ違う。
視線を逸らされる。
避けられる。
はっきりと。
外に出る。
廊下。
空気が違う。
さっきのやつらが、少し離れたところにいる。
普通に。
何もしてないみたいに。
目が合う。
一瞬だけ。
すぐ逸らされる。
何も言わない。
でも、それで十分。
遥は立っている。
廊下に。
自分で入った形だけが残って、説明も、証明もできないまま。
中で起きたことよりも、外に出たあとに決まった評価だけが残る。
コメント
1件
うわ、これめっちゃ胸が苦しくなった……。 「入れられて」って言っても信じてもらえなくて、説明もできないまま「そういう奴」ってレッテルだけ貼られる感じ、リアルすぎて読んでて辛かった。 誰も悪意を認めないし、証拠もないし、外に出た後の空気がもう完全に変わってるのが描写だけで伝わってくる。 続きどうなるんだろ……遥がこれからどう動くのか、気になる。