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教室の空気はいつもと少し違った。いつも通りの授業が始まる前に、遥は首輪をつけられ、薄い布一枚だけをまとわされていた。服は与えられず、裸足の足先が冷たい床に触れる。後ろの席からは、いつもの嗤い声が絶え間なく響く。
「おい、犬みたいだな。ワンワンって感じ?」
「首輪似合ってるじゃん。散歩連れてってくれよ」
声の主はクラスメイトだ。嗤い声に混じる囁きや指さし、拍手や軽い蹴り――すべてが遥を追い詰める。自分の体がどう見られているか、どう扱われているかを、逃げ場のない教室で全身で感じるしかない。顔が熱くなる。頬が赤くなる。心臓が早鐘のように打つ。
それでも、何もできない。目をそらすことも、声をあげることも許されない。教室の中央で膝を折り、手は床に置かれる。言葉は出ないが、体の緊張がすべてを物語る。わずかに震える肩、冷たい床に押し付けられた掌、逃げたいのに逃げられない自分。
「おい、前見ろよ。ちゃんとアイコンタクトして歩け、犬みたいにな」
男子の一人が指示する。手にした定規を軽く床に叩きつけ、音で威嚇する。後ろからは嗤い声と囁きが重なる。
「見ろよ、首輪ついてる」
「ちょっと舐めてみろよ」
――言葉は残酷だ。身体に触れるでもないのに、心理的圧迫は強烈に突き刺さる。
遥は心の中で自分を叱る。こんなことで怯える自分は弱い、と。しかし、心の奥底では恐怖が混ざった痛みが渦巻く。羞恥と絶望が交差し、自分の存在を否定する感覚が押し寄せる。
一人の女子が近づいて、髪を掴むようにして笑う。
「もうちょっと頭下げなよ、犬なんだから」
小さな音を立てて、遥の膝が震える。床に顔を近づけ、空気の震えまで感じ取ろうとする自分がいる。周囲の嗤い声、囁き声、指さし、拍手――すべてが自分に向けられている。
教室全体が、遥を玩具のように扱う場となった。声にならない小さな吐息、押さえた唸り、肩の震え……それらすべてが、心理的な追い込みとなる。逃げ場はない。誰かの視線がある限り、恥と恐怖は続く。
それでも、遙は耐えるしかなかった。声を上げればさらに嗤われる、動けばさらに指示が増える。裸足で、首輪をつけられたまま、教室の中央に置かれた「犬」としての自分を、全身で感じ続けるしかない。
「おい、動けよ、犬だろ?」
「そうそう、ちゃんと四つん這いで歩け」
後ろの男子たちの声に、遥は小さく息を詰める。膝を曲げ、手を床に置く。裸足の感覚が冷たく、痛みが鈍く脳を刺す。
「首輪、ちょっと引っ張ってみろよ」
「おい、噛むフリしろ、犬なんだから」
女子たちも笑いながら、髪を弄ったり、肩を軽く押したりする。言葉だけでなく、体に触れられる小さな動作が、遥をじわじわと追い詰める。
「よくできたな、でももっと頭下げろ」
「ほら、手伸ばして、地面なめろ」
嗤い声に包まれ、膝の震えを抑えながら、遥は必死に命令に応える。心の中では「自分は何をやってるんだ」と自己嫌悪が渦巻くが、口には出さない。動かないと、もっと酷い嘲笑が待っている。
「見ろよ、あいつの足、めちゃくちゃ震えてるぜ」
「うわ、顔も赤くなってる。まさに犬だ」
女子が首輪を軽く引き、男子が拍手する。教室全体がひとつの観客席になり、遥を見物する。
「もっと、ほら、走れ!」
「犬みたいに、こっちまで走れ!」
指示されるたび、遥は必死に従う。心の中で「弱い自分、嫌だ」と思いながら、必死で体を動かす。羞恥と恐怖が混ざり合い、息が荒くなる。
「待て待て、回れ!」
「そうだ、ちゃんと回って、犬みたいにな」
小さな声が漏れ、すぐに嗤い声でかき消される。誰も気にしていない。すべては遊び、そして遥はその中心の玩具。
「疲れたか?でもまだ終わりじゃないぞ」
「そうだな、ほら、もっと低く頭下げろ」
呼吸が乱れ、肩が震える。裸足の感覚、冷たい床、首輪の締め付け、周囲の嗤い声……すべてが混ざり合い、痛々しい圧迫となる。
遥は心の中で自分を叱る。
「こんなこと……でも止められない。止めたらもっとひどくなる」
嗤い声、指示、囁き、拍手……教室の空気全体が遥を追い込む。四つん這いの自分を、逃げ場のない状況で晒すしかない。
「おい、吠えろ!」
「ほら、声出せ、犬だろ!」
「……わん……」
小さく、かすかな声。嗤い声の波にかき消され、しかし教室全体の圧力は増す。誰も助けない、誰も気にしない。遥は裸足のまま、首輪をつけられ、教室全体の玩具となっている。