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「待って義兄さん!一人で勝手にイかないでよ!」
額に汗を浮かべ、息を弾ませた陽が廊下を一人で歩いていた奏へ声をかけた。研究室のある棟から、セキュリティーロックのある扉を幾つか通り抜け、奏は事務系の職場スペースが集まる棟へ来ていた。彼女は普段、食事時や休憩時間以外はほぼ研究室に籠もっている。その為、監視カメラの映像で奏が移動している事を知った陽は、慌てて秘書課からここまで走って来たらしい。
「陽さん?何をしてるんですか。廊下を貴方が走るとか、他の社員へ示しがつかないので、もうしないで下さいね」
私服の上に白衣を羽織り、首からは社員証をぶら下げた奏が、少し驚いた顔をしながら陽の方へと近づく。珍しく、その声色には相手を躾けようとする気持ちまで滲んでいた。そんな新しい一面を見られた陽は、不謹慎にもゾクゾクッと快感を覚えてしまった。
「ごめんね、もうしないよ。でも義兄さんだって悪いんだよ?(私の)監視が薄い場所になんかイこうとするから。一人だなんてダメだよ、どうせなら一緒にイこう?」
そう言って、陽が奏の手を取り、自らの胸元へと引き寄せる。不安げに揺れる眼差しを前にして、奏は『甘えん坊な人だなぁ』と思った。
「わかりました。すみません、普段とは違う行動をしてしまって。でも、ただ備品の補充に行くだけだし、社内での移動のみですから、陽さんが心配する事は何も無いですよ?」
「本当に?」
「はい」
そう答え、奏が口元だけで笑みを作る。笑顔とは言い難い程度の笑みでも、陽の心臓を射抜くには十分だった。
奏の手を握る手に力が入り、彼女の骨が軽く軋む。その手を自分の胸元へと更に引き寄せ、陽は呼吸を荒げながら俯いた。『尊さのあまり死にそうだ』という言葉が的確な程に、体も心も打ち震えている。
「じゃあ一緒にイクよ、備品室まで。一人だと大変でしょう?」
「ダメですよ、お仕事に戻らないと」
「大丈夫だよ。今は湯川さん宛に届いたメールや書類の確認もほとんど終わっていて、あとは取引先の人を接待で連れていく店を選ぶくらいだから。そっちもあと少しで終わるし、二人でこれから二、三時間休憩したって問題ないくらいには、一段落していたところだよ」
「そう、何ですか?」
そう言いながらも、奏は『でもなぁ』と言いたげな顔をする。
「ねぇお願い、少しだけだから。少しだけでも、一緒にイクのを許してよ」
「でも、少しだけとか最初だけとか言って、最後までしそうですし……」
「そうだね、最後までシたいのは本心かな。でも、途中で止める方が半端でイヤじゃない?どうせなら、最後までシた方がお互いにスッキリしていいと思うけど」
バレちゃってるか、と表情だけで語り、陽が苦笑する。
「……もう、仕方ないですねぇ。じゃあ、ここでグダグダしている時間も勿体ないですし、パッと行ってサッと終わらせますか」
「ありがとう!義兄さん。でも、私的にはゆっくりシたいかな。二人で一緒の事が出来る貴重なチャンスだしね」
苦笑していた陽の顔が一気に笑顔へと変わる。胸元に引き寄せていた奏の手を軽く持ち上げると、陽はその手に頬ずりをした。身長差があるせいで奏の踵が少し浮いたが、そんな事、彼はお構いなしだった。
「にしても、備品室に二人か……いいね。実にいい」
二人で並んで歩きながら、ウンウンと頷きつつ陽がニヤニヤとする。
「暗くて狭くて物が多いだけの場所じゃないですか」
「義兄さんにとっては、そうかもね。ふふふ」
(兄さんは発想が健全だなぁ。私だったら義兄さんとあんな事やこんな事が出来る絶好のチャンスだなって思うのに。本当に紳士だ。……襲ってくれても、襲われてくれても私的にはアリなんだけどなぁ)
んー、と猫口になりながら陽が唸る。
「それなりに多いので、アレが必要なんですが、どこかにありますかね」
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#異世界転移
花月夜れん
3,056
#オリジナルストーリー
海月🪼🩵‐Mizuki
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えっと、とこぼしながら、奏が口元に指を当てて名前を思い出そうとする。久しぶりに使う物のせいか、名前が思い出せないみたいだ。
「『アレ』?それって、沢山あった方がいいもの?」
「いえ、一つで大丈夫なんですが……。それなりに量があるので、アレがないと後々大変かと思うんですけど、えっと……」
「あ、台車か。わかった。途中で手に入れてからイこうか。ちゃんと用意しないと危険かもだしね」
奏が言いたかった物が台車だと気づき、二人はそれを回収するため、廊下を揃って歩き出した。
「陽さん、無理して腰を痛めたりしないで下さいね。最後まで一人ででもやってしまいそうですし、今から心配です」
「やだな、一緒にってさっきから言ってるじゃないか。イクのも最後までスルのも、義兄さんとがいいしね。腰だってちゃんと労わるから大丈夫だよ。義兄さんこそ気を付けてよ?あんまり無茶したら、お仕置きするからね」
そう言って、陽が隣を歩く奏の腰に触れ、そっと撫でる。手付きがかなりイヤラシイが、私服と白衣のおかげでガードが固くなっていた奏は、うっかり感じてしまったりなどはしなかったみたいだ。
「軍手もいるかな?ちゃんと覆わないと、義兄さんの柔肌を傷つけそうで心配だよ」
「それは持って来ましたよ。準備は万端とまではいきませんが、問題なく出来そうですね」
陽が手を軽く握ったり広げたりしているのを見て、奏は軍手の事だと理解したらしい。
「流石だね、義兄さん」
「褒めても何も出ませんよ?」
「えー、何か出して欲しいなぁ。義兄さんがくれるモノだったら、何でも嬉しいからさ」
――と、二人の『備品室』や『補充』という最初の言葉を聞き逃していたら、ほぼエロ会話にしか聞こえない内容を、廊下を歩きながら普通に話している。陽の方は確実に、楽しみながら、そうなるよう意識して会話をしていた。
わざとなのか、無意識なのか。
廊下ですれ違うだけの社員達には、確かめる術などない。
ただ、誰もが心の中でこう叫んでいた。
『場所を選べ!もっとエロく聞こえないように意識して会話してくれよ!悶々とする原因でしかないから!』……と。
コメント
1件
読み終えました〜〜!🤍🥀 もうね、陽さんの「尊さのあまり死にそう」って台詞がリアルすぎて私も死にそうになった(涙) 備品室とか台車とか言いながら完全にエロ会話になってるの、わざとなのか天然なのか…。 最後のモブ社員の心の叫び、めっちゃわかる。「場所を選べ!」って思わず声出そうになったよ…。 奏さんの無自覚な誘い方も、陽さんの執着も、全部がたまらなく尊い回でした。次の話も静かに読みに行きます🌙💫