それから15分程して引っ越し業者のトラックが到着した。
岳大はディレクターの保坂が引越しの様子を撮影したいと言っていたのを思い出し、引っ越し作業を始めていいのか保坂に確認しようと思い電話をかけようとした。ちょうどその時保坂達テレビクルーの乗る車が到着した。
保坂は笑顔で車から降りると言った。
「佐伯さん、今年もよろしくお願いしますよ」
「こちらこそ。お手柔らかにお願いします」
そして岳大は横にいた優羽を紹介した。
「こちらはアシスタントの森村さんです。彼女には商品開発や店舗運営に関わる仕事をやってもらっています。あ、あと、新カタログのモデルは彼女なんです」
「森村です。よろしくお願いいたします」
「初めまして保坂です、よろしく! スタッフの方がモデルですか? それはまたどうして?」
「頼んでいたモデルが当日ドタキャンになってしまったんですよ。それで急遽彼女にやってもらったんです」
保坂はなぜドタキャンだったのだろうかと不思議に思う。
そして再び優羽と岳大に視線を戻し彼女を戻した。そこで二人が会話をしている様子を見て保坂は何かを感じたようだ。
長年この業界で仕事をしていると人の心の機微には敏感になる。
そこで保坂は思った。もしかしたら彼女は佐伯の特別な人なのではないだろうか? そう見抜いた。
そこで引っ越し業者のスタッフがしびれをきらしたように言った。
「そろそろ荷物を運び始めてもよろしいでしょうか?」
「お待たせしました。どうぞ、始めて下さい」
保坂の言葉を合図に荷物の運び込みが始まった。
車の外で機材の準備していたテレビクルー達が持ち場へ着きいよいよ撮影がスタートした。
優羽はなるべく後ろの方へ下がってカメラに映らないようにと移動する。
それに気付いた岳大が言った。
「優羽さんもこっちに来て手伝ってください」
優羽は慌てて手をブンブンと振ると、
「私は大丈夫です!」
何が大丈夫なんだろうかと自分で言って笑いそうになる。
そこで保坂が言った。
「森村さんも是非出演して下さい。この番組は店の新規オープンに絡んだドキュメンタリーなんです。だからスタッフの方達にも積極的に出演していただけると助かります」
「あ…….はい」
仕方なく優羽は岳大の傍へ行った。
そして岳大と一緒に運び込まれた荷物をどこに置くかの指示を出す。
時折二人は会話を交わしながら微笑み合う。
保坂はすぐにカメラマンに合図を送ると、二人の見つめ合う姿を撮影させた。
二人とカメラが二階へ移動した時、保坂は一階にいたカメラマンに聞いた。
「撮れたか?」
「バッチリです!」
保坂は満足気に頷いた。
岳大は謙虚で物静かなイメージの写真家だ。有名人にありがちな浮いた話は一つもない。
それほど真面目で誠実な写真家として有名だった。
厳しい自然を相手に勝負しているのだから当然と言われれば当然なのだが、保坂はそんな岳大の真面目なイメージを良い意味で覆したいと思っていた。
岳大の人として、そして一人の男性としての人間臭い部分もカメラで捉えたい…そう思っていた。
各業界から引く手あまたの人気山岳写真家が東京を捨てて長野へ移住する。そして新たにアウトドアショップをオープンする。
それだけでも充分ドラマティックな番組になるかもしれないが、保坂はそれだけで満足するような男ではなかった。さらにそこへ岳大のドラマティックな人生を組み込みたいと思っている。
「よーしっ、じゃあ俺達も二階へ行くか!」
保坂がそう声を掛けると、撮影クルーが一斉に「はいっ」と返事をし二階へ移動を始めた。
保坂は窓の外に広がる真っ青な冬空を見上げながら、満足気にうんと頷いた。
コメント
3件
長野県民を代表して移住を大歓迎いたします🎉🏔️🏡
店舗オープンも追いかけ、2人の恋の行方も追いかけるんですね!保坂さん!!! やるぅ〜ε٩(๑> ₃ <)۶з
保坂さん、眼光鋭いし空気を読むのも長けててさすが業界人👍✨‼️ 岳大さんと優羽ちゃんのツーショットもしっかりチェック✅して番組に活かそうとする手腕が凄過ぎる✨✨ どんな素敵な番組になるのかとても楽しみ〜😊🎶