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楓のアパートに向かいながらヤスが一樹に聞いた。


「で、あの女優の家に何しに行くんですか?」

「今後はもう女優業はしなくていいと伝えに行く」


それを聞いたヤスは一瞬意味がわからないようだった。


「え? それってどういう……?」

「彼女はAV女優の仕事を嫌々やってたんだ」

「じゃあやっぱり兄貴に無理やりやらされてたって事ですか?」

「だろうな」


ヤスは絶句した後、一呼吸置いてから言った。


「でも金が必要だからあの仕事を引き受けたんですよね? 辞めたら困るのでは?」

「借金してたら困るだろうな」

「借金があるんですか?」

「いや、彼女にはない」

「じゃあなんであんな仕事を?」


ヤスはますますわからないといった顔をする。


「まだ調べている最中だからこれはあくまでも俺の予想だが、彼女は兄の命令で仕方なくAV女優になった。つまり金が必要なのは兄貴の方だな」

「マジっすか? ちょっと俺なら考えられないっす……」

「だよな? お前にも妹がいるもんなぁ」

「はい。もし俺が金に困ったとしても妹をAV業界なんかには売ったりしませんよ。そんな事をするくらいなら俺がホモ動画にでも出ますっ!!!」


そこで一樹が声を出して笑った。


「ハハハ、まあそれが普通だよな?」

「一樹さんだってそうですよね? 妹さんの事、大事にしてますもんね」

「うちはもう親がいないからなぁ。いや、でも彼女のところももう親がいないんだ」

「いないんですか?」

「ああ。交通事故で両方逝ったらしい。だから彼女は施設育ちなんだよ」

「施設ですか…。だったらなおさら兄貴がしっかりして妹を守んないと駄目でしょ?」

「だよなぁ」

「俺ら裏社会の人間でもそう思うのに、その兄貴、かなり頭がイカれてますね」

「ああ。だから後でトラブっても困るから女優業は辞めてもらう事にしたんだ」

「なるほど…」


その時二人の乗った車は楓のアパートの前に到着した。

古いアパートを見ながらヤスが呟く。


「動画2本分の出演料は結構大金なのに本人はこんなとこに住んでんですか? だったら金は間違いなく兄貴に行ってますね」

「そうだろうな。話は一時間くらいで終わると思うから、お前その辺で茶でもして来いよ」


そう言って一樹は財布から一万円札を抜き出すとヤスに渡した。


「あざーっす。もし早めに終わったら連絡下さい」

「おうっ」


一樹は車を降りるとアパートの敷地内に入って行った。



(たしか101号室だったな……)


一番手前のドアの前に立った一樹は古びたインターホンを押した。

するとすぐに中から声がした。その声はまるで森の中でさえずる鳥のように澄んだ声だった。



「どちら様ですか?」

「突然すみません。藤城(ふじしろ)コーポレーションの東条と申します」

「藤城コーポレーション?」



しばらくシーンと静まり返った後、また美しく澄んだ声がこう聞き返した。



「あの……藤城コーポレーションってもしかして……」

「ウィステリアエージェンシーの親会社の者です。実は長谷部楓さんにお話ししたい事がありまして」


ドアの内側で楓は驚いていた。

プロダクションと初めて面談をした時、動画制作は親会社である藤城コーポレーションが取り仕切っていると説明を受けた。

しかしなぜその親会社の社員が女優の自宅まで来るのだろうか?


楓はAV業界が裏社会と繋がっている事を知っていたので急に不安になる。

そしてドアの向こうから聞こえてくる声は、表向きは紳士的で落ち着いた雰囲気を装ってはいたがかなり迫力のあるドスの効いた声だ。

しかしこのまま無視する訳にもいかず、とりあえずチェーンをかけたままドアを開けてみる。


するとドアの隙間から見えたのは、仕立ての良いダークグレーのスーツを着た背の高い男だった。

男はモデルや芸能人のように強いオーラを放つとびきりのイケメンだ。


(あれ? 思ってたのと違う……)


てっきりパンチパーマの強面の男がいると思っていた楓は拍子抜けする。

しかしそのイケメンの目つきはかなり鋭いようにも見えたが、今はその威圧あえて抑えているようにも見えた。それは楓を警戒させないためだろう。そうまでされたらドアを開けない訳にはいかない。

そこで覚悟を決めた楓はチェーンを外してドアを開けた。


「いつもお世話になってます。で、私に何のお話でしょうか?」


すると一樹が楓に名刺を差し出す。

名刺には『株式会社藤城コーポレーション 代表取締役 東条一樹』と記されていた。


(しゃ、社長さんっ?)


「藤城コーポレーションの東条と申します。突然すみません」


その時、一樹の後ろをアパートの入居者が通り抜けて行った。

このままここで立ち話をすると話の内容が外に筒抜けになってしまうと気付いた楓は、一樹に中に入ってもらう事にした。


「あの、よろしかったら中へどうぞ」

「ではちょっとだけお邪魔します」


一樹は楓が出したスリッパを履いて中へ入った。


古びたアパートの間取りは1DKだった。

玄関を入るとすぐに4.5畳のダイニングキッチンがあり奥に6畳の和室があった。縦長の間取りだ。

奥の部屋にはベッドとチェストとローテーブル、それにテレビが置いてあった。ダイニングには2人掛けの正方形のテーブルがある。

室内は狭くて質素だが、綺麗に整理整頓されていた。


楓は小さなダイニングテーブルの椅子に一樹を案内する。


「狭くてすみません、どうぞおかけ下さい」

「失礼します」


一樹が椅子に腰を下ろすと、楓はやかんでお湯を沸かし始めた。


「あ、お構いなく」

「お茶だけですので…」


楓がお茶の準備を始めたので、一樹はもう一度部屋の中をチェックする。


キッチンに置いてある物を見ると、彼女が普段自炊をしている事がわかる。

冷蔵庫の扉にはスーパーの特売チラシが張られ、その横にはシフト表が貼ってあった。おそらくビジネスホテルのものだろう。

カラーボックスの上には小さなクリスマスツリーと小さなスノードームが飾られていた。そしてキッチンシンクの前には水に浸した豆苗とバジルの小さな鉢植えがある。豆苗の先端は短くカットされているので最近収穫したばかりのようだ。


その時一樹の前にお茶が置かれた。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


一樹は早速お茶を一口飲む。


(うん…美味い……)


安い茶葉のはずなのにお茶は美味しく感じた。

その時前に座った楓が口を開いた。


「あの……お話って?」


一樹はお茶をゆっくりとテーブルに置くと楓にこんな質問をした。



「AV女優の仕事をやろうと思ったのは、自分の意志ではないですよね?」



突然核心を突いた質問をされたので、楓は驚きのあまりすぐには返事が出来なかった。


_________________

【お知らせ①】

青色の「次の話を読む」を押すと、なぜか次の12話ではなく13話に飛んでしまう現象が一部であるようです。

一時的な不具合かもしれませんが、気付かずにそのまま読んでしまうと12話を飛ばす事になりますので、このページの後は一度目次に戻って12話を選択してから読む事をおすすめます。お手数をおかけして大変申し訳ありません。

【ショートドラマ原作】心恋 ~uragoi~

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コメント

134

ユーザー

こちらで瑠璃マリコと検索をしたら二人いらしたのは知っています。 検索の過程で表示されるされただけなのかと思っていました。 もう一人の瑠璃マリコさんは、先生のことを知らないのかな? 偶然としたら凄いかも💧

ユーザー

マリコ先生人気だからあやかりたかったのかな? 楓ちゃんと一樹顔合わせしましたね笑これからどうなって行くのかなー🤭

ユーザー

同姓同名にびっくりしました。 でもちゃんとフォローしていますので大丈夫です☺️ さて、ストーリーはいよいよ2人が会いましたね〜 これから先がとっても気になります🥰

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