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遥の言葉が終わったあと、短い沈黙があった。
空気が、ひときわ重く感じた。
俺は何も言えなかった。
いや──何か言おうとしたけど、喉の奥で言葉が詰まって、どうにもならなかった。
遥は俯いたまま、もう何も言わなかった。
「俺はおまえを汚した」
「触れたかっただけで、加害なんだよ」
そう言って、もう自分のすべてを否定し終わった人間みたいだった。
その姿が、どうしようもなく痛くて、苦しくて。
俺は、一歩、踏み出した。
「それでも」
声が、思ったより震えていた。
「それでも──俺は、おまえに触れたかった」
遥の肩が、わずかに揺れた。
「優しくしたいとか、救いたいとか、そんな大それたもんじゃない。
ただ、あの日……おまえが泣いてるのを見て、目をそらした俺のことが、許せなかった」
俺は、喉の奥が詰まるのを無理やり押し殺した。
遥の表情は見えない。
でも、それでも伝えたかった。
「おまえがどれだけ自分を嫌っても、どれだけ汚れてるって言っても──
それを見て、俺が“関わりたい”って思ったのは、嘘じゃない」
静かだった。
息を呑むような時間だけが、流れていた。
遥が、ふっと目を伏せた。
「……バカだな」
また、その言葉だった。
けれど今度は──声が、ほんの少し、熱を帯びていた。
俺はゆっくりと手を伸ばした。
触れるか、触れないか。
ほんの数センチの距離で止めて。
「触れてもいいか?」
遥は答えなかった。
でも──逃げなかった。
それが、答えだった。