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#和風ファンタジー
#異能
#和風ファンタジー
この階層は他とは構造違うらしい。
靴の下にあるのは普通の床じゃない。固く頑丈だけど弾力があり、隙間のある金網のようなものを踏みしめた時のような感触があった。
「……」
お互い無言のままそこを進み続けた後、不意に姫宮さんが立ち止まった。そして闇の中、何かをまさぐる気配を立てる。
「私達はこの最下層フロアを禍殺ノ殿と呼んでいます。害悪な怪異をディスポーズ処理するための場所。――早い話が怪異の処刑場ですね」
「しょ、処刑場……」
その普段、使い慣れない言葉だった。
じゃあ、姫宮さんがうちに見せたいものって言うのは……。
と、地の底を思い何かが引きずられるような音がして――。
ゆっくりと目の前の視界が左右に開いてゆく。
そこから入り込んだ白く眩い光に瞳孔を射抜かれ、うちは呻き声をあげていた。だけど、次第にその光量に慣れ――、明らかになったその場の異様さに思わず息を飲んでしまう。
扉の向こうにあったのは、管制室のような広い部屋だった。
様々な計器やモニター、何に使うのかよくわからない機械類が山のように置かれていた。
そこには白い上着をきた十人前後の人達がいて、みんな、うちらに背を向けて立っていた。
その人たちが見つめていたのは、高さ五メートル、幅十五メートルほどの強化ガラス製と思しき巨大な窓の向こう。
そこには照明にまばゆく照り付けられた高校野球のグラウンドのような空間が広がっていた。グラウンドの中心には大きな穴が掘られており、その横には小さなピラミッドのように土が盛られている。
そして、その前には二台の重機が並んでいた。
大きなドラムを載せたコンクリートミキサー車のようなやつと車体の先端に大きなバケットを装備した油圧式タイプ。
「――おい、姫宮アンナ。姿も見せず、連絡も取れないと思ったら今頃ご登場かい? 一体、どこに――」
行ってたんだ? とぼやきながら白衣集団の一人がうちらを振り返る。
それは丸い眼鏡をかけた三十代前半と思しき女性だった。
「つ、塚森キミカ……ちゃん? どうしてここに?」
うちと目が合い、小顔美人な女の人の表情には困惑。
丸く突き出たお腹を、一目で妊娠しているとわかる下腹部をSF映画でよく見かけるサイボーグのような義手で触れている。
この人は柴崎ゼナ博士――。
組織の怪異研究を担当する白虎機関の幹部で上級研究員。
そして、今回、うちの命を怪異から守ってくれた恩人でもある。
「まさか姫宮アンナ、君が彼女を連れて来たのか? どうして……」
「あっ、違うんですよゼナ博士」
ゼナ博士に視線を戻され、慌てたように姫宮さんが手を振る。
「キミカちゃん、今回、怪異のせいでたくさん怖い目に遭ったじゃないですか。その末路をしっかりと見せて安心させてあげたくて……。それにキミカちゃんだって、もう、こっち側の人でしょ?」
「だからって……。直属の上司である私に一言の相談もなく、こんな重要なことを独断で決めるのか?」
「えへへへ……。寮を出た時に思いつきましたから……。だけど、キミカちゃん本人の了承は取りましたし、問題ないですよね?」
「大アリだ。むしろ、問題しかないだろ」
ゼナ博士と姫宮さんのそんな遣り取りを耳にしながら――、吸い込まれるようにしてうちは窓へと近づいていった。
うちが気になったのはグランドに停車している油圧式車両。
より正確に言えば、そのバケットのなか。そこには大小さまざまな形をした石材の欠片のようなものがギッシリと詰め込まれていた。
よく見れば、欠片たちは身を寄せ合うようにして、小刻みに震えているようだった。
「あ、あれってまさか――」
「あっ、やっぱりわかりますか? さすがは塚森家のお嬢さん」
背後から――、顔を覗き込ませるようにして姫宮さんが言った。
「そうなんです。あそこでバラバラに砕かれたゴミクズが今回、キミカちゃんとお友達に酷いことをした怪異、笑ひ岩のなれの果てです」
「……えっ? ……ええっ?」
「捕獲作戦がうまくいったのは鳥羽さんのお陰ですよね。今回の事件解決のMVPは間違いなくあの方です。……そうですよねゼナ博士?」
姫宮さんに話を振られ、ゼナ博士がため息。
「そうだな。小細工で攻めるなら私にも多少の手はあるが……。怪異戦は結局は殴り合いだからね。ああいう力任せの戦いで相手の息の根を止める戦い方は私にはできないな」
捕獲とか、殴り合いとか、息の根を止めるとか――。
女の人同士の会話とは到底思えない、不穏当な言葉が次から次へと飛び出してくる。胸がザワザワとして喉が締め付けられるような感じがだんだんと高まって来る。