その後しばらくしてから涼平は詩帆のいる場所へ戻った。
詩帆はちょうど絵を描き終えたところだった。そんな詩帆に涼平は拾った貝殻を渡す。
「はい、お土産」
「うわぁ、ありがとう! とっても綺麗ね。 こんなに素敵な貝殻があるのね」
詩帆は嬉しそうに微笑む。
「絵は描けた?」
「うん」
詩帆は頷いて描き上げたばかりの絵を涼平に見せた。それを見た涼平は思わず「おぉっ!」と声を上げた。
その絵は何とも言えない躍動感に溢れていた。パワーに満ちたとても力強い印象の絵に仕上がっている。
今までの詩帆の絵とは全く違っていた。
セルリアンブルーの海の色の変化を見事に捉えていた。太陽光を浴びて微妙に変化する海面のグラデーションにインパクトがある。
絵に関しては全くの素人の涼平から見ても、その絵が今までの詩帆の絵を大きく上回っているという事は明らかだった。
「なんか凄いよ。今までとは全く違う。なんて言うのかな? 躍動感とパワーが凄いよ」
涼平の言葉を聞いた詩帆は嬉しそうに「ありがとう」と言った。
「何かのコンテストとか? そういうのに出してみたら? ほら、今って企業が主催する絵画コンテストみたいなのがいっぱいあるだろう? 絶対そういうのに挑戦するべきだと思うな」
「うん、私もそういうのを少し考えているの。今までそういった事からは逃げていたけれど挑戦してみようかなって。スクールの生徒達に刺激を受けて自分も頑張らなきゃって思ったから」
「そうだよ。詩帆はもっと自信を持っていいと思うよ。応援するから頑張れ」
「うん、ありがとう」
それから二人は片付けを始めた。このままここで夕日を眺めていたいところだが、できれば日が暮れないうちにキャンプ場へ移動したい。
片付けが終わり車へ向かおうとした時、突然空がピンク色に染まり始めた。
「夕焼け……」
詩帆の呟きで涼平も空を眺めた。
二人の目の前の空が更に深いピンク色へと染まっていく。水平線と空の境目はピンクとセルリアンブルーが混ざり合い薄紫色へと変化して滲むように水平線を染めていく。
海は相変わらずセルリアンブルー色に染まり穏やかな海面は波に揺れてキラキラと輝いていた。
二人はその神秘的な光景を前にして無言のままだ。
しかし次の瞬間詩帆の身体を涼平が後ろから抱きすくめた。そして詩帆の耳元には涼平の息遣いが感じられた。
二人はこの美しい瞬間に一緒にいられる喜びを同時に嚙みしめていた。
(俺はもう離さない。絶対にこの幸せを守り切る)
涼平は美しい海にそう誓った。
それから二人はキャンプ場へ向かった。キャンプ場へ行く前に日帰り温泉に立ち寄った。
露天風呂がある温泉だったので二人は紅葉が始まったばかりの山を眺めながら温泉を楽しむ。
キャンプ場は山と山の間にあった。
規模的には小さめのキャンプだったが、ほとんど貸し切り状態で近くに人の気配はなかった。
受付で手続きを済ませるとテントを張る場所まで移動する。涼平たちが借りた場所はすぐ傍に小川が流れている川のせせらぎが聞こえる場所だった。
涼平は早速テントの設営を始めた。涼平が手際よくテントを組み立てるのを詩帆は興味深そうに見ている。
そのテントは二人で使うには充分な大きさだった。
次に涼平は焚火台を設置して火をおこした。そして先ほど管理棟で購入した薪を少しずつ入れる。
火の勢いが安定した所で涼平は火の上に網を載せた。
その後二人は一緒に調理場へ行き野菜を切ったり米を研いだり食事の準備を始める。
涼平は伊東で買った伊勢海老を取り出すとさばき始めた。
「凄い! 伊勢エビもさばけるのね」
「うん。これも加納先輩仕込み」
涼平はにっこりと笑う。
クーラーボックスにアジが入っている事に気付いた詩帆は、アジをさばくのを買って出た。
詩帆は料理は苦手だと言っていたのに魚を見事にさばいたので涼平は驚く。
「料理できるでしょ!」
「魚をさばくのだけは得意なの。ほら、釣りに行っていたから」
「魚をさばけたら大したもんだよ。きっと料理も練習すれば上手くなるよ」
「そうかなぁ?」
詩帆は微笑んでいる。
半調理の食材を持ってテントへ戻ると早速涼平が調理を始めた。
フライパンに研いだ米と水、そして醤油やみりんなどの調味料と細切りにした生姜を入れる。そしてその上に伊東で買ったアジの干物を載せてから蓋をして火の上に置く。
「アジの干物の炊き込みご飯だよ」
「美味しそうー」
「今日はお魚づくしです」
涼平は伊東で買ったサザエと金目鯛の干物も焼き始める。そして伊勢海老の頭で味噌汁を作った。あとは出来上がるのを待つだけだ。
涼平はクーラーボックスからビールを取り出すと詩帆に一本渡した。
それから二人は乾杯してからビールを飲み始めた。
「ぷはぁーっ! 温泉の後のビールは美味いなー!」
涼平はニコニコして上機嫌だった。
詩帆も自然溢れる静かなキャンプ場で川のせせらぎを聞きながら飲むビールはなんて美味しいのだろうと思う。
サザエのつぼ焼きやアジの刺身はとても美味しかった。
美味しい魚があると酒が進む。ビールの後、二人は白ワインを開けて楽しむ。
詩帆は久しぶりに沢山飲んだので、少しずつ酔いが回り始め開放的になっていく自分を感じていた。
木々の間からは無数の星が輝いていた。眩しいくらいの星明かりは二人を優しく照らしている。
詩帆は美しく輝く星たちを宝石箱に詰め込んで持って帰れたらいいのに…..そんな風に思っていた。
コメント
2件
公私ともに充実し 絶好調✨ 描く絵にも変化がみられる詩帆ちゃん....🌊 コンテスト出品も 頑張ってね✊‼️ その後 キャンプ場に移動した二人....🏞️⛺️🚙 キャンプいいなぁ~♥️久しぶりに行ってみたい‼️ 魚づくしのキャンプ飯が とっても美味しそう~🐟️🍚🍻🥂🔥😋💕
見上げた満天の星空🌌も素敵だけど、今日1日で涼平さんと詩帆ちゃんには有り余るほどの思い出ができて、詩帆ちゃんの夢だったセルシアンブルー🩵の海🌊の絵も書き留める事ができたね🥰👍本当におめでとう🎉涼平さんの尽力もあってこそだね🥰❤️❤️❤️ 今宵は魚づくし🐟と美味しい🍺🍷😋を堪能して涼平さんとのキャンプ⛺️を素晴らしい思い出にしてね🥰💞❤️👨❤️💋👨