私は先ず、魔王さまについて何か変わった感じはないか、と尋ねた。
はて……。と、首を傾げながら、ファル爺は国防に関する事なのでと言いながら、過剰気味に、さらに防備を固める準備はしていると答えた。
「そういうことじゃなくて……たとえば、睡眠時間が短いとか」
伝わっていそうで伝わっていない言葉に、私は机をトンと叩いて聞いた。
すると途端に照れた様子で目を逸らして、歯切れ悪く、それはまぁ……と。
確かに、聞き方としては夫婦の営みを想像させただろうけども。
「そ、そうじゃなくて! 私、魔王さまが眠っているところを一回しか見ていないんです。それもうなされてて――」
そこまで言うと、ファル爺は真剣な顔でこちらに向き直った。
「うなされておられた。ですと?」
うんうんと強く頷いて、その続きを期待する。
「……魔王様も、お若い時は色々とご苦労をされておりますゆえ。何か嫌な夢でもご覧になったのでしょう」
「たとえば?」
ファル爺は少し、話を濁したような気がした。
核心から遠ざける様な、曖昧な答え。
最初はもっと、重要なことを察したような素振りだったのに。
「そうですなぁ。人族に対してご容赦をなさる手法に、若い衆からの反発があった事、などなど……いやいや、今はその深いお考えに皆が賛同して、反発する者もおりませぬが」
「……ファル爺。何か隠してるわよね」
そんな、今は解決したような話で、あの人がうなされるわけがない。
魔王さまの力をもってしても、及ばなかったような事件なりがあったはずだ。
「王妃様……。爺めは、魔王様と出会ってから長い方ではありますが……それでも魔王様が、今と違わぬお力を持ってからでございます」
ファル爺の神妙な顔つきを、初めて見た。
いつも飄々としているようで、けれどそれは、周りをしっかりと見て道化を演じているからだ。
それほどの人物が、ここまで真剣な表情をするなんて。
「ですから、それ以前に何をご経験なさったのか、爺には分かりませぬ。語る事もなさらぬお人。それを聞き出せるとしたら、王妃様以外には……」
そこまで言うと、ファル爺はゆっくりと腰を上げた。
「頼りになれず、申し訳ありませぬ」
本当に申し訳なさそうに、頭を下げて部屋を出て行ってしまった。
「あ……」
何か、言葉を返そうとしたけれど、咄嗟には何も出て来なかった。
謝らせてしまったことに、ごめんなさいと言いかけて。
だけど、何かは隠している。
それを聞いてくれるなと、あの優しいファル爺が話を切り上げてしまった事に、ショックだったのとが合わさって。
何も言えなかった。
「……余計に気になるのに、もう、誰にも聞けなくなっちゃったじゃない」
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