テラーノベル
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「あ、……あぁんっ……」
ただ指を沈ませただけなのに、甘い微熱の塊が破裂しそうに疼いてたまらない。
「ああ……凄い……溶けそうに、熱い」
彼の甘い吐息が、私の耳に降り注ぐ。
その低い声が私の快感を揺さぶり、全身が燃えるように熱くなる。
「……あ……はぁ……今泉さん……いい……ああっ……つっ……ンン……」
擦られ、奥をグッと突かれた瞬間、下腹部にズキッと刺さるような痛みが走った。
「……どうした? つらいか?」
思わず引いてしまった腰の動きに気づいたのか、彼は指の動きを止め、私の顔に視線を落とした。
彼の身体を伝って流れ落ちる水滴。
濡れた首筋が艶やかに目に映り、私の欲情はさらに高まるばかり。
染みるような痛みを感じながらも、疼く内側は彼を欲しがり、ドクドクと速い脈を打っているのが分かる。
「……大丈夫。もっと……して……」
あなたに与えられる快感で、忌まわしい余韻などすべて体外へ吐き出してしまいたい。
頭上から降る雨と、止めどなく溢れる熱とが、零れ出し、混じり合って流れ落ちていく。
壁に背中を預けた身体に痺れが走り、自分の重さを支えきれなくなった足が小刻みに震えだす。
「今泉さん……あん……はぁ……」
……早く、焦らさないでほしい。……そんな淫らな言葉を口走りそうになった瞬間。
熱い快感が私の身体を突き上げた。
一つに重なる体温。
押しては引いて、浅いところで焦らされるのがじれったくて、苦しくて、
「もっと……深く……してっ……」
「大胆な亜紀も素敵だ……いいよ。壊れて、意識を遠くに飛ばしてしまえばいい」
脳が、身体が、甘く溶ける。
「はぁんっ……」
一気に突き上げられ、より深く激しく腰を振りたくられる。
擦り合う熱が、得も言われぬ快感を生み出す。熟れた身体は欲深く、彼を締め抱き、奥へと引き込もうとしている。
――芯が、まるで焼けた石のように熱い。
身体に刻まれる灼熱感も、内に走る痛みさえも、
彼に与えられるものならば、すべてが愛おしくて、切ない。
もっと私を狂わせて。
「好き」とも「愛」とも言えぬ、もっと奥深くで繋がる感情。
人が作り出した言葉など要らない。
この感じ合う熱こそが、私の欲しかったものだから――。
このままずっと繋がっていたい……ずっと、深く……。
「……亜紀、イクよ」
「ああっ……いいっ……また……っ……私も一緒に……今泉さん……はああっ」
奥まで達した衝撃で絶頂の波が押し寄せ、甘い悲鳴が喉を突いた。
「私についた汚れ……全部流れたよね?」
肩で息をしながら、彼の胸に頬を寄せる。
「……ああ、全部流れた。元通りの、綺麗な亜紀だ」
彼はバスタオルごと私の身体を抱きしめ、額に優しくキスをした。
彼の感触で埋め尽くされた身体――。
夫に触れられることが汚らわしく、不倫相手に触れられることを清らかに感じてしまう。
私の意識の中で『貞操を守る』とは、伴侶である夫ではなく、今泉さんに向けられている。
何が汚らわしく、何が清らかなのか。
――壊されていく倫理観。
「…………」
彼の熱が残る下腹部にそっと手を当て、静かに息を吐いた。
「どうした?」
黙り込む私の顔を覗き込み、彼が首を傾げた。
「……ううん。……まだ、身体が熱くて。ぼーっとしちゃった」
「そうか。早く拭いてベッドに潜ろう。風邪を引いたら大変だ」
今泉さんは穏やかな口調で言って、まるでお風呂上がりの子供の体を拭くように、私の体を丁寧に拭き上げてくれる。
「……今泉さん、ありがとう」
あなたにとって危険な存在でしかない、こんな私を受け入れてくれて……。
「んん? ……そんな、改まってお礼を言われることはしてないぞ?」
「私が、ありがとうって言いたいの」
「……そうか。なら、俺も言わなきゃな。亜紀、来てくれてありがとう」
彼は口元を大きく緩めて綺麗に笑うと、私の頭にタオルを乗せ、悪戯っぽく両手でくしゃくしゃと撫で回す。
「やだっ。髪が絡んじゃう」
「風邪を引かないように拭いてるんだ。我慢しろっ」
「もっと優しく拭いてよぉ」
「んん? 俺はいつも優しいぞ」
……うん。
今泉さんはいつも優しい。
優し過ぎて、もっと、もっと、失うのが怖くなっちゃうよ……。
彼に精一杯の笑顔を向けながら、私は胸の内に涙を隠した。
***
ブラインドの隙間から、園庭の外灯の明かりが静かに差し込む。
背後から大切な子供を抱くように私の体を包み込む温かな腕の重みと、耳にかかる彼の小さな寝息。
シャワーを浴びた後、私はすべてを今泉さんに打ち明けた。
夫の浮気相手が友人であったこと。
夫が兄の借金を肩代わりしていたこと。
何故、私が今泉さんのもとに逃げ込んだのか……。
『離婚はしない。この体はだれにも渡さない!』
……体に刻まれた忌まわしい傷痕の意味も、すべて打ち明けた。
今泉さんの重荷になるのが嫌で、言い出せなかったのに……。
吐き出してしまわなければ精神が壊れてしまいそうなほどに、私は追い込まれていた。
涙を流す私の肩を抱きながら、彼はずっと頭を撫で、静かに話を聞いてくれていた。
そして、「今夜は、亜紀が眠れるまでこうしてるから」……そう言って、私を優しく抱き寄せた。
シングルベッドに身を寄せ合う二人。
「ごめんね、今泉さん。寝たふりしちゃった……」
じゃないと、ホントに私が寝るまで起きていてくれそうなんだもん。
眠りに落ちてもなお、私を守るように自分に引き寄せたままの彼の腕。
私はその腕に頬を付け、与えられる安らぎの中に身を落とした。
彼がいなければ、今の私はどうなっていたのだろう……。
今泉さんと出会っていなくても、夫が楓と浮気をしていた事実に変わりはない。
直江先生の存在も、避けられたはずはない。
――もし今泉さんと出会っていなかったとしたら、私は夫との離婚を選んだだろうか?
楓を捨てた夫の冷酷さに怯え、浮気相手の楓に同情などしただろうか?
……きっと、楓に同情などしなかった。
何故なら、彼と出会う以前の私は、彼女の気持ちを理解することなんてできなかったから。
何度体を重ねても、決して手に入らぬ人を愛しく想う感情も、一時の幸せも、じれったさも、切なさも、そして常に燻る罪悪感も――。
私には、理解できるはずもなかった。
変化を嫌い、見たくない現実に目を伏せていた意気地なしの私に、自ら別れを切り出す決断などできたはずがない。
夫に怒りを感じ、楓に怒りを感じ、それでも夫が私を選んだことに「楓、ざまあみろ」と、虚しい優越感に浸っていたかもしれない。
「怒り」の感情など、いつかは時間とともに流されてしまう。
今泉さんと出逢い、私の中に生まれた感情……。
その感情によって、私は変化している。
安らかな寝息を立てる彼を起こさぬように、ゆっくりと体を彼に向ける。
あなたがいてくれるから、私は前に進める。
それは、私とあなたの関係の前進ではなく、私の生き方の前進――。
だから……。
「あなたと出逢えたことに感謝しています」
私、もう逃げないから。
自分で決着をつけるから……だから、お願い。
せめて、心だけはあなたの側にいさせてください……。
彼の頬にそっと手を当て、涙で潤む瞳に精一杯の笑顔を浮かべた。
コメント
1件
うわあ……118話、読み終えました。切なくて、でもとても温かい回でしたね。亜紀が今泉さんにすべてを打ち明けて、受け入れてもらえた瞬間の安堵感がひしひしと伝わってきました。「あなたと出逢えたことに感謝しています」というセリフ、心に染みました。倫理観が揺れ動く中でそれでも「前に進む」と決意する強さ……柏木さんの繊細な心理描写が本当に素晴らしいです。亜紀の涙が隠した笑顔に、私も胸が締め付けられました。
#大人ロマンス
桃下結衣
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#狂愛
柏木さくら
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ruruha
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瑠璃マリコ
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