テラーノベル
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翌朝、港と寺のあいだを人が何度も行き来した。
遼征が手配した足場材の寸法を枝央理が確認し、蓮都が荷役仲間を連れてきて、啓介と一緒に離れの中へ慎重に運び込む。曳航のためのロープと材木が、今度は海ではなく床を支えるために使われようとしていた。
「船じゃなく寺を引っ張る日が来るとはな」
蓮都が肩で笑う。
「引っ張るな。支えるんだ」
枝央理が即座に直す。
義海は工具箱を抱えたまま、行ったり来たりしているだけで戦力になっていない。
「俺、何持てばいい」
「落ち着き」
享佑が言うと、離れの端でようやく小さな笑いが起きた。
美恵はその横で、補修費の見込みと利用人数の数字を表にしていく。感情の証言だけでなく、現実の支えも同時に差し出すためだ。
遙香は役場へ走り、昼過ぎに息を切らして戻ってきた。
「取れた」
「何が」
啓介が聞く。
「存続審査の前に、説明の時間。かるたの披露も含めて見てもらえる」
離れの中に、どよめきが広がる。
「ただし、条件つき。安全面の暫定対応ができてること。人数を絞ること。資料もその場で出すこと」
「全部やる」
啓介は即答した。
遼征は組み上がっていく仮設足場を見上げる。
「寺側と港側が同じ日に同じ方向向くの、初めてじゃないか」
啓介も見上げた。
海から来た材木とロープが、離れの未来をつなごうとしている。
曳航のためのものが、今は人の居場所を支えるために結ばれていた。
その結び目は、赤いリボンより無骨で大きいのに、どこか似た意味を持っている気がした。
#海辺の町
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