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――あの、すみません。
ここって川衣メンタルクリニックさんでいいんですよね?
あっ、すみません。
受け付けにどなたもいなくて……勝手に入って来ちゃいました。
私、今日、受診予約を入れさせてもらってまして。
――はい、そうです。
竹原と申します。こっちが娘のミトで。
ええ。美しい都、と書いてミトです。
……ほら、ミーちゃん。
ミーちゃんも先生にご挨拶してね。
……ママね、先生とお話があるからその間、静かにしててね?
おうちから持って来た電動のこぎりマンのオモチャで遊んでいてもいいから。
……ええ、そうなんです。
今日は休日ですけど、主人が仕事で朝から出かけていまして。
この子にも私について来てもらったんです。
あ、もう診療を始めて頂けるんですか?
すみません。早く来てしまったのは、こっちの都合なのに。
じゃあ、ミーちゃんはこっちでお座りしてくれる?
さっきも言ったけど、しばらくいい子にしてね。
はい、いいお返事。
じゃあ、その……よろしくお願いします先生。
まずは自己紹介――、ですか? わかりました。
……ええっと竹原カリン、主婦です。
年齢は二十五歳になります。
家族構成は夫マサオとこの子、ミトの三人暮らし。夢ノ宮市在住です。
……ええ、ミトは来年、幼稚園の年長組にあがる予定でして。
あ、すみません……。ため息なんかついてしまって。
はい。実はそうなんです。最近、あまり良く眠れなくて。
ちょっとノイローゼ気味って言いますか。
ええ。ですから夫に勧められてここに……。
人間関係や仕事関係のトラブル?
うーん……。特にそういうのはありませんね。
夫も義両親もよくしてくれますし、現在は子育てに専念中で休職中ですから。
……実家との関係ですか?
実家はお隣の童ノ宮市にありまして――、かれこれ十年近くは帰ってませんね。両親はすでに他界していますし実家を継いだ一番上の兄と年に数回、オンラインで話すぐらいでしょうか。
長兄とは二十歳も離れていて、小さい頃からとても可愛がってもらいましたし良く面倒を見てもらいましたけど……。
確かに最近は少し疎遠ですね。
だけど、それはそれぞれ家庭がありますし、どうしてもそちらが優先になってしまうというか。
……あ、先生もお住まいは童ノ宮なんですか?
でしたら、童ノ宮の稚児天狗もご存知ですよね。
昔、その伝承が子供向けのアニメになって結構、ヒットしたみたいですし……。
いえ、私は敢えてその関連は見てませんし、娘の目にも触れさせていません。
童ノ宮の稚児天狗は――私の実家、塚森家の氏神様なんです。
ごめんなさい。いきなり胡散臭いですよね。
だけど実家の話をする以上、神様のことは避けて通れなくて。
塚森家は所謂地元の名士で、先祖代々、童ノ宮の神職を勤めていまして。
年に一度か二度。
時々ではあるんですけど、人が担ぎ込まれていました。
お化けや魔物の類に遭遇し、その障りに苦しむ人たちが。
ええ、そうなんです。
所謂、悪霊払いですね。童ノ宮の伝統的に言えば、怪異落としともいうらしいですけど。
……こんなオカルトまがいな話、信じられるわけないですよね。
頭がおかしい、そう思われても仕方がないです。
だけど――、私自身、小さい頃から何度も目にしてるんです。
狐みたいに目を吊り上がらせた子供が踵をあげてそこらじゅうを走り回ったり、ひだる神に憑かれ、栄養を奪われて骨と皮だけみたいに痩せ細った女の人とか。
童ノ宮は建立されてから千年もの歴史を持つ由緒正しい神社で、
表向きは火伏せ、子宝の神様と言うことになっているんですけど……。
悪いものに苦しめられる人達を救うため、神様の稚児天狗の力を貸してもらうこともあると。
……お恥ずかしい話ですが、幼い頃はこーゆーことが普通だと思っていたんですよね。他所の家庭にも私んちみたいな神様がいて、困っている人を助けてるんだって。
実際、家族はそれが当たり前みたいにしていました。
毎日、お宮や祈祷所のお世話をするのはもちろん、誰もそこにいない場所に向かってニコニコ話しかけたり、逆に恐縮して頭を下げたり。
カリンには見えなくても、そこにはお稚児様がいらっしゃるから失礼があってはいけないよ、って何度も注意されました。
……どう思っていたか、ですか?
嫌でしたね。もちろん。やっぱり怖いですし、そんなの絶対普通じゃないじゃないですか。
だけど、家族のなかでそう思っていたのは私だけでした。
私はこんなに嫌で怖がっているのに、みんなは当たり前のように受け入れていて。ある意味、これって教育虐待じゃないのって思ったこともありますよ。
もちろん、思っても口にしたことはありません。……だけど、家族だから何となく伝わっちゃいますよね。
だから、次第に私と家族の間には溝が広がってゆきました。
……いえ、正確に言えば、私が一方的に離れていったのかもしれません。
……ええ、みんなはちっとも悪くない。
家にしても――、私は本気で嫌いだった訳じゃないと思います。
だけど、ふとした瞬間に自分の家が友達と比べて普通じゃないと気まずくなることが嫌だったんだと思います。
思春期にはその傾向がますます顕著になっちゃって――。
気がつけば、私は童ノ宮の祭儀に参加することを一切拒否するようになっていました。