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親身に相談に乗ってくれる信也さんがいて凪子さんも本音を出せるのは助かるよね。でも身の安全は絶対だしプロの弁護士の意見も教えてもらおう‼️
店は古民家風の佇まいの洒落た造りだった。天井付近には年代物のりっぱな梁が見える。
おそらく建物自体を移築したものだろう。
席はプライベート感が守られた半個室風になっておりゆっくりくつろげそうだ。
信也は素敵な店を沢山知っていた。
仕事柄そういう店での会食が多いのかもしれないが、
おそらくガールフレンド達を連れて行く為でもあるのだろう。
席に着くと、信也は懐石風のコース料理を頼んでくれた。
そしてビールの生も二つ頼む。
すぐにビールが来たので、二人はすぐに乾杯した。
「最近和食ばかり好んでる? 前はイタリアンとかよく行ってたのに…」
「おっ? イタリアンの方が良かったか?」
「ううん、私は和食も好きよ! でもさ、世間的に超売れっ子デザイナーが生で乾杯って…なんか違うわよね? やっぱりワイ
ンっていうイメージじゃない?」
「ワインも好きだけど、やっぱり仕事終わりは生だろう?」
「フフッ、仕事の時はカリスマ性があるのに、オフだと普通のオッサンなんだから」
「オッサン言うなっ!」
信也の反応に思わず凪子が笑う。
「ところで、そっちはその後どうなんだ?」
「うん、今日ね、相手の女を観察してみたの。そしたら、やっぱり黒かも」
「そっか…」
「あっ、でね、私、色々調べていたら神ブログを見つけちゃった。今ではすっかり私のバイブルよ」
凪子はスマホを取り出すと、そのブログを表示して信也に見せる。
信也はそのブログを自分のスマホに表示させると、早速読み始めた。
信也が読んでいる間に料理が運ばれて来たので、
凪子は「お先に―」と言って先に箸をつけた。もうお腹がペコペコだ。
ブログにざっと目を通した信也が言った。
「まさかこの通りにしようっていうんじゃないだろうな?」
「そうよ。早速(プランA)を実行してみたわ。これがその時買って貰った服」
凪子はそう言って、花柄ワンピースの胸元を摘まむ。
「よく似合ってる。で、相手の女の反応は?」
「青ざめた表情で微動だにしなかったわ。だから不倫相手は彼女で確定だと思う」
「でもさぁ凪子、相手をあまり刺激しない方がいいんじゃないか? 怨恨からの傷害事件にでも発展したらそれこそ最悪だぞ」
それを聞いた凪子はフンッという顔をしてから言った。
「刺せるもんなら刺してみなさいよって言ってやりたいわ。そうしたら相手は刑務所へ行くんでしょう? 既婚者だとわかって
いて手を出すような泥棒猫にはきちんと制裁を加えないと」
「だからって、お前が怪我したり死んだりしたら意味ないだろう? もうちょっと冷静になれよ。俺はお前の事を心配して言っ
てるんだぞ」
「分かってるわよ、心配してくれてありがとう。でもね、あの二人に言ってやりたいのよ。不倫するならばれないように徹底
しろってね。そうしたら私だってこんな辛い思いをしなくても済んだのよ。それなのにあの女はわざと匂わせてくるのよ! 妻
に気づかせて優越感に浸りたいのが見え見えじゃない…だから私はちゃんと仕返しをしたいの!」
凪子は一気に捲し立てる。
「わかった、わかったよ…でもくれぐれも気をつけろよ。嫌がらせなんてしてくる女は、相当気が強くて神経が図太いから
な…」
信也はそう言って、再び『なつみん』のブログを読み始めた。
そしてしばらく読んでから凪子に聞いた。
「これ…ここの『夫に求められたら応じる』のところ、まさかこれも実行するのんじゃないだろうな? 裏切られているのを知
っててお前旦那と寝れるのか?」
「嫌だけどやるしかないでしょ」
凪子は泣きそうな顔で答える。
答えながら、土曜の夜夫に何度も抱かれた時の事を思い出す。
そしてこらえきれずにウッと吐き気を催した。
あの時は、不倫相手に負けたくないという闘争本能から普段はしないサービスまでして夫を悦ばせた。
それに気を良くした夫は調子に乗って何度も凪子を抱いた。
そこは全くの計算違いだった。
凪子はあれ以来あの夜の事を思い出して激しい嫌悪感を覚えていた。
夫のソレが、あの女の股の間に入ったと思うだけで激しい吐き気がこみ上げて来る。
そしてソレは今度は裏切っているはずの妻を何度も貫いた。
その矛盾した行為に激しい怒りを覚えていた。
もし再び良輔が凪子を求めてきたら、今度は受け入れる自信はなかった。
青ざめて具合の悪そうな凪子を見て信也が言った。
「大丈夫か? おまえまさか……妊娠…?」
「それはないわ。ちゃんとピルを飲んでいるから!」
「それって避妊の為か?」
「そうよ。だって別れるつもりなんだから、妊娠は防がないと」
「そこまで決心してるのに、なんで抱かれなくちゃいけないんだ? 本当は嫌なんだろう?」
信也は気づいていた。
信也は凪子の性格を熟知しているので、潔癖症の凪子が他の女を抱いた夫の事を
受け入れられるはずがないとわかっていた。
我慢して受け入れたとしても、相当なストレスがかかるだろう。
そこで凪子が興奮気味に捲し立てる。
「嫌でも我慢するしかないじゃない。妻が夫を拒否すると、夫の不倫の原因は妻にあるって言われちゃうのよ! 悪い事は何
もしていない私が不利になるのよ。私は絶対に負けたくないの! だから我慢するしかないじゃない…」
涙目で訴える凪子をなだめるように、信也は落ち着いた声で言った。
「つまりこういう事か。セックスレスが原因で夫が不倫を正当化する可能性があるから、求められたら受け入れるしかない…そ
ういう事なんだな? うーん、なんかそれも違うような気がするが……ちょっと待ってろ、今うちの弁護士に聞いてやるか
ら…」
信也はそう言うと、スマホを取り出し電話をかけ始めた。
「あー、城崎さん? すいませんこんな時間に…ちょっと友人に相談されて聞きたい事があるのですが……」
信也は会話をしながら立ち上がると、店の出口へ向かった。