雪子は笑いが落ち着くと、急に思い出したように言った。
「そう言えば昨日ね、店に豊村悦司にそっくりの人が来たんだよ」
「うそっ! そっくりってどのくらい?」
「顔も雰囲気も凄く似ていてオーラみたいなのも出ていて堂々としているの。まるで本物の芸能人みたい」
「へぇーそうなんだー! 自分に似た人がこの世に三人いるってよく言うけれどその一人だったりして?」
「そうかもしれない。でさ、さっき言ったでしょ? 父の遺品整理をしたって。その時に本を誰かいる人に持って行ってもらお
うと思って家の前に出しておいたんだ。ご自由に持って行って下さいって書いてね。そうしたらその豊村悦司似の人が持って行
ってくれたらしいの。すごい偶然でしょう?」
「えー? なになに凄い偶然。おじさんの本っていう事は地学系の本? って事は、その人そういう関係の人なのかな?」
「そこまでは聞かなかったけど。でも堅い仕事をしている感じではないかも。オシャレな感じだったし」
「ふーん。でも雪子の家の前を通ったって事は近所の人なのかな?」
「そうみたい。本格的に引っ越して来るのはもうちょっと先って言っていたけれど、うちの上にある高級住宅街に家があるみた
い」
「へぇー、あの辺りは芸能人も多いからねぇ。もしかしてそういう関係の人かもね。独身なのかなぁ?」
「そこまでは知らないわよ。え? ちょっと…なんか変な事考えてるでしょう?」
「うふふ、だって偶然の出会いでしょう? なんか運命を感じるじゃん」
「運命は感じないけれどさ、その人、スーパーで困っている所を助けてくれたんだよ」
雪子は優子にあの時の出来事を詳しく説明した。
それを聞いた優子は、
「へぇー男前だねぇー。カッコいいじゃん、狙い目だよそれ! 雪子チャンスを逃すな!」
「無理無理、本当にカッコ良過ぎて絶対モテると思うよ。ああいう人って浮気し放題で危険! 常に周りに美女がいそうだも
ん」
「そっかぁ。いい男だと女が群がる。でも女が群がらない男は魅力に欠ける…くぅーっ悩ましいねぇー」
優子の言葉に思わず雪子が笑いながらピザをモグモグと食べ始めた。
すると優子が言った。
「そう言えばだいぶ昔にさ、雪子が離婚した直後だったかな?」
「何?」
「ほら、修の大学時代の同級生に豊村悦司にそっくりの人がいるって言った事あるじゃん。覚えてない?」
「あっ、急に思い出した。確かその人も離婚したばっかりで、修さんが私に紹介してくれるって言ったんだよね?」
「そうそう。でもあの頃の雪子は旦那の浮気で男性不信気味になっていて即却下したんだよね。豊村悦司に似ているなら、モテ
モテで絶対浮気するって言い張って」
「うん、言ったかも! だって豊村悦司似の男性が離婚したって聞いたら女絡みの離婚だって思うじゃない? あの時はもうそ
ういうのには懲り懲りしていたからね。それにモテ過ぎる人と付き合ったら絶対に不安だよね? 常に女の影に怯えるとか私は
絶対無理!」
「確かにそうだよね。常にハラハラしたり疑ったりすると疲れちゃいそうだよね。でもあの人、今どうしてるんだろう? 帰っ
たら修に聞いてみようかな」
「優子こそ豊村悦司似の旦那の友人と不倫とかやめてよー。菊田夫妻は私の憧れで理想なんだからね! 二人には絶対最後まで
添い遂げてもらわないと!」
「アハハッそれは大丈夫だよ。私、豊村悦司よりも竹野内隼人の方がタイプだし」
「あれっ? 好み変わった?」
「前からそうよ。豊村悦司を好きなのは雪子だけだよ。それにさぁ、私が修と別れる訳ないじゃん! 辻堂の地主の息子だよ
ー?」
優子がニヤッと笑う。
「はいはい、それが本心じゃない事は分かってるよ。何年あなたと付き合っていると思ってるの? 優子は金に目が眩む女じゃ
ないもん! 修さんは優子にベタ惚れ、そして優子も修さんに一途なのは見ていてわかるから。あー、私もそういう相手と結婚
すればよかったなー」
雪子が嘆くように言うと、
「何言ってんの。まだまだ女はこれから! うちの母なんてね、未亡人の癖に未だ現役で80歳近いのにナンパしまくってるん
だから。それに比べたら50歳なんてひよっこだよ」
優子はそう言って笑った。
「おば様お元気そうで良かった。そっかー、50代はまだひよっこなのね。90歳まで生きるとすれば、まだ40年もあるんだよ
ね。なんか色々考えちゃうなぁ」
雪子は複雑な表情をしたまま、またピザを食べ始めた。
その後二人は美味しいワインと共に食事会を楽しんだ。
コメント
8件
小声でひっそり🤫 「辻堂の地主の息子だー」 ↓ 「辻堂の地主の息子だよー」 かな?🙊
え?しょっと→え?ちょっと でしょうか?
雪子さんと優子さん対照的でも仲良いですね。そんな友人が欲しいくらい~笑っ