2本目のワインがテーブルに運ばれて来た時雪子が言った。
「修さんの店のコーヒースクールってまだやってるの?」
「うん、やってるよ。毎週月曜日の午前中にね。それがどうかした?」
「私、受講させてもらえないかな?」
「えっ? どうした? 急に」
「家の片付けが進むとなんか少しやる気が出てきたみたい。私カフェ好きでしょう? だからちょっとコーヒーの勉強でもして
みようかなと思って」
「へぇー凄い! 新しい事に挑戦するのは大賛成! 雪子は昔からカフェが好きだったもんね」
「うん、実は私ね、結婚していた時自宅でお店を開きたいっていう夢があったんだ。離婚する前にね、一戸建てを買お
うかっていう話が出ていたんだけど、もしそれが実現していたら家の一部屋をお店にするつもりだったんだ」
「そうだったの? その話は初耳だわ。戸建て購入の話も自宅ショップの話も。あ、でも雪子ってさ、子供の頃お店屋さんごっ
こが好きだったよねぇ」
「うん。あの頃から自分の店を持つ事に憧れていたのかも」
「で、コーヒーっていう事はカフェでも開くの?」
「ううん、今はお店を開くとかは考えていないよ、そんなお金ないし。でもあの頃はカフェか雑貨店を開きたかったんだ。あの
時代ってそういうのが流行っていたでしょう?」
「あったあった。自宅ショップの雑誌の雑誌とかあったよね? インテリア雑誌なんかにもそういうの載ってたし」
「雑貨店もカフェも私にとってはずっと癒しの場所だったんだ。俊之と上手くいっていない時は雑貨店に行って癒しの時間をも
らっていたし、仕事と父の介護でしんどかった時はほんの10分でもカフェで過ごすと生き返るような気がしていたし。とにか
く私にとっては大切な場所だったんだ」
「そっかぁ。雑貨店やカフェが辛い時の雪子を支えてくれたんだね。で、まずは興味のあるコーヒーの勉強? いいんじゃな
い? 思い立ったらやってみたらいいよ。実際に動く事で何か発見があるかもしれないしね。凄いよ雪子! なんか昔の雪子が
戻ってきた感じがする。お帰り雪子!」
優子は嬉しそうに微笑んだ。
「えへっ、なんかねちょっと前向きになってきた。いつまでも鬱々していても時間が勿体ないしね。それにいつまでも和真に心
配かけたくないし」
「そうだよ、子供の人生だけは邪魔しないであげないと! その為にはいつまでもはつらつとしていなくちゃ!」
「『はつらつ』って久々に聞いた」
雪子がそう言って笑うと、
「何言ってんの。ファイト~一発~だよぉ」
「昭和世代だ懐かしい!」
二人は同時に声を出して笑う。
「コーヒースクールの件は了解! 明日の月曜日から来られる? 早速帰ったら修に言っておくから」
「月曜日は仕事休みだから大丈夫だよ! ではよろしくお願いしまーす」
「なんかやる気に満ち溢れていいなぁ。私も負けないように頑張らないと!」
「優子は頑張り過ぎだからもういいでしょう?」
「ううん。なんか雪子と話していて刺激を受けたわ」
「えー? いつもは私が優子から刺激をもらっているのに?」
「うん。今日は雪子の方がパワフルだよ」
そこでまた二人はクスクス笑う。
その後、デザートとコーヒーを終えた二人は九時少し前に店を出た。
そして店の前で別れる。
電車の中で雪子は清々しい気持ちでいた。
優子と過ごす時間はいつも楽しい。
今回も優子にいっぱい元気を貰えた。
そして、以前から気になっていたコーヒースクールの件も思い切って口に出すことが出来た。
漸く長いトンネルを抜けて一歩踏み出せた気がした。
雪子はそんな自分に満足し軽快な足取りで電車を降りる。
なぜかスキップしたくなるような気分だ。
その時雪子のスマホが鳴った。
携帯を見ると息子の和真からメッセージが来ていた。
【今度の土曜日帰ります。一泊するからよろしく】
(和真が帰って来る!)
雪子は逸る気持ちを抑えながら返事を送った。
【了解です。土曜はお母さん夕方まで仕事だから、家で待っててね】
【了解】
男の子の返事はそっけない。それでも嬉しいのだ。
今夜は思いがけず嬉しい事が続いたので、
雪子はスキップではなく躍り出したいくらいの気分になる。
少し飲み過ぎたのだろうか?
少し冷たい秋の風が、火照った頬に心地よい。
歩きながら、雪子はふと夜空を見上げた。
すると夜空には満月にほぼ近い月が煌々と輝いていた。
コメント
2件
ファイトー❗️いーっぱぁーーっつっ‼️めちゃくちゃ懐かしい😆何を隠そう雪子さんと優子さんほぼ同年代‼️ワタシノガウエ😂まだまだイケるね✨一緒にガンバル!! (๑•̀ - •́)و✧
雪子さんが更年期をクリアして家の片付けやコーヒースクールの受講に開眼したのはスゴイの一言に尽きますね✨これは〜優子さんも嬉しくて仕方がないね😂