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※主人公でなくクズ男のれんれんアイコンにした爆
暗い部屋。カーテンの隙間から街灯が差し込む。そのかすかな光の中で、蓮司は何度も遥の髪を撫でた。やさしく、だが執拗に。繰り返す指の動きは、慰めにも、観察にも見えた。
「ねえ、まだここにいるの、なんでだと思う?」
蓮司の声は、首筋に落ちる吐息と重なって、くすぶるように響いた。
「おまえさ、ほんとは俺に抱かれてたいんじゃないの?」
遥は返事をしなかった。できなかった。
ただ唇を噛んで、息を殺していた。
身体が反応するのを、自分の意思で止められないことを知っている。そのことが一番の地獄だった。
蓮司の指が、シャツの裾をなぞる。触れてはいない。だが、触れると知っている距離。
「やだって言わないの、いつも。ほんと、えらい」
耳もとで囁かれて、遥はわずかに背を丸めた。蓮司はその反応に満足したように、笑った。
「泣きそうな顔してんのに、我慢してさ。ほんと、そそる」
それがどんな意味を含んでいるのか、遥はもう考えようとしなかった。
蓮司の膝が近づいてきて、触れそうで、でもまだ遠い。
——やめろ、という言葉が喉の奥で腐っていく。
(やめてほしい?違う、違う……。やめたら、俺は……)
触れられなければ、今度は“必要とされなかった”ことになる。
——俺のせいで、日下部が晒されるくらいなら。
——俺の身体で済むなら、そのほうがいい。
そう思い込むことが、遥の中では“正しさ”のかたちだった。
蓮司の手がようやく、肌に触れる。微熱のような温度。軽い、でも境界を越えている。
「ん……」
微かな声が漏れたことに、遥自身が驚いた。耳まで赤くなる。
「今の、かわいかった」
蓮司はそう言って、遥の頬に唇を押しつける。キスとは違う、所有の刻印のような接触。
遥の目は、どこにも焦点を結ばなかった。
自分の身体が、誰のものでもなくなっていく感覚。
それでも、逃げなかった。
いや──逃げる理由がなかった。
どこにも逃げ場など、最初からなかったのだから。