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翌日も放課後、椿は自然な笑顔で声をかけた。
「今日はさ、校庭まで荷物運んでほしいんだ」
遥は無言で頷き、肩にかかった荷物を背負った。重さが肩や腰にずしりと響く。
「ほら、早く歩けよ。遅いってば」
椿の声は友達らしく柔らかい。しかし、その口調の裏で、遥を焦らせ羞恥感を煽る計算が透けて見える。遥は必死で足を動かす。
校庭に着くと、椿は指示を続けた。
「その辺に置いといて……あ、ちょっと向こうの柵のところも拭いてくれる?」
遥は埃だらけの地面に膝をつき、手で擦りながら、無言で頷くしかなかった。
その時、遠くからクラスメイトの嗤い声が聞こえた。
「見ろよ、あいつ膝ついて埃だらけだぜ」
「マジで犬みたいだな」
その言葉は直接遥に届くわけではない。しかし背筋に冷たい針が走る。遥の心は萎縮し、自分が役立たずだとまた自己否定が膨れ上がる。
「ちゃんとやれって」
椿はさらに命令を重ねる。荷物を持ちながら、膝で拭き、手のひらで小石や砂をかき集める。遥の身体はすでに疲労で震え、羞恥感と痛みが混ざり合う。
「……う、うん……」
声がかすれ、呼吸も乱れる。それでも笑顔を崩さず、頑張ろうとする自分を責める。
「どうして俺は、いつもこうなんだ……」
椿はそれを見て、まるで楽しむかのように軽く手を叩いた。
「お前、マジで使えるな」
褒雑な表情は見せず、友達として褒めるように言うが、遥の胸に刺さるのは羞恥と無力感だけだった。
遠くでクラスメイトが携帯で写真を撮っているのも、椿にはわかっていた。遥は笑顔で荷物を運び、膝で地面を擦りながら、その視線の冷たさに気づかないふりをするしかない。
「もう少しだ、頑張れ」
椿の言葉には優しさが混ざる。けれど、その優しさは次の命令の布石でしかない。遥の身体と心は、疲労と羞恥、屈辱で押し潰されていた。
作業が終わり、遥が荷物を置くと椿は笑顔で手を叩いた。
「お疲れ。さすが俺の信頼できる相棒だな」
遥は照れ笑いを浮かべるが、心の奥底では自己嫌悪が渦巻く。信じた友情は、巧妙な利用と羞恥の連鎖に過ぎなかったのだ。