第2話「ジグマと目蒲との出会い」
「…あれ?やばい、今日の宿題なんだっけ?」
目蒲 安(めがま やすし)はノートを開いたまま、頭を抱えた。放課後の教室には数人のクラスメイトが残っているが、みんな自分の作業に集中していた。
「昨日、何か書いたはずなのに…思い出せない…!」
焦る安の視界の隅で、何かがぴょこっと動いた。机の端に、小さなドラゴンのような生き物がちょこんと座っていた。
「…ん?」
よく見ると、その生き物はまるでぬいぐるみのような見た目だが、確かに動いている。
青紫の体に、メガネのような模様の光る目。尾の先は本のしおりのような形をしていた。
「お前…なんだ?」
「んー?オレ?ジグマ。覚えるのが得意な害獣だよ。」
害獣?なんだそれ?安は思わず目をこすったが、ジグマは相変わらずそこにいた。
「お前、今しゃべったよな?」
「うん、そうだね。」
まるで当然のように答えるジグマ。
「で、なんで俺の机の上にいるんだ?」
「うーん…なんとなく?」
「なんとなくって…」
安が困惑していると、ジグマがふっと笑った。
「ところで、宿題忘れたんでしょ?」
「…あ、そうだった!」
「昨日、先生が黒板に書いてたページ、オレ見てたから覚えてるよ。」
「…は?お前、昨日の黒板覚えてんの?」
「そりゃそうでしょ。オレの能力、暗記メガネだからね。」
ジグマは自慢げに胸を張った。
「えーっと、算数のページは…26ページの問題5と6、それから国語はプリント。プリントは机の奥に突っ込んでるよ。」
「え、マジで?…って、ホントにあった!」
安は机の奥から、ぐしゃっと折れたプリントを取り出した。間違いない、昨日配られたやつだ。
「すげえ…でも、なんでお前が覚えてるんだ?」
「オレが見たものは、宿り主も忘れにくくなるんだよね。」
「宿り主?」
「そうそう、オレはお前の害獣だからね。」
「いや、勝手に決めるな!」
安がツッコむと、ジグマはけらけらと笑った。
ジグマが言うには、害獣は子どものエネルギーで生きる存在らしい。人間には見えないこともあるが、宿り主には見えるという。
「ま、細かいことはいいじゃん!オレがいれば、テスト勉強とかも楽勝だよ?」
「…マジで?」
安の目がキラリと光った。
「そうだ!じゃあ、今度の社会のテスト、お前の力でバッチリ対策できるか試してみようぜ!」
「いいよー。」
こうして、安とジグマの奇妙な生活が始まった。
そして数日後、テストの結果が返ってきた。
「えーっと、社会のテストの結果は……うわ、50点!?」
安は思わず叫んだ。ジグマに頼りまくって覚えたはずなのに、点数は微妙だった。
「なんで!?お前の暗記メガネがあれば、もっと高得点のはずだろ!?」
「んー…安が覚えてたの、オレが見たところだけだったからね。」
「は?」
「オレ、歴史の年号とかあんまり見てなかったし、重要単語も安が勝手に飛ばしてたよね?」
「お、お前、それ早く言えよ!!」
「えー、聞かれなかったし。」
安はがっくりと肩を落とした。確かに、ジグマに頼って適当に勉強していた。だが、ジグマの力には限界があったのだ。
「…やっぱ、ちゃんと勉強しないとダメか。」
「まあまあ、オレがいれば、勉強のコツは教えられるよ。」
ジグマは安の頭をぽんぽんと叩く。
「次のテストはもうちょい頑張ろ?」
「お、おう…まあ、お前とならなんとかなる…か?」
「よっし!じゃあ、次のテスト勉強もよろしくね!」
ジグマはニッと笑い、安も苦笑いを返した。こうして、安とジグマの生活は本格的に始まったのだった。
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