階段には沢山の砂が積もっていて歩き辛い。
昨日の強風で積もったのだろう。
不安定な階段を歩く真子に、拓は手を差し伸べる。
「ほら…掴まれ」
「ん、ありがと…」
真子はそう言って拓の手を握った。
二人は手を繋いで階段を降りると、そのまま波打ち際へと歩き始める。
そこで真子は気になっていた事を拓に聞いた。。
「サーフィンはここでやるの?」
「いや、辻堂の方だよ。涼平さん達は辻堂がホームグラウンドなんだ」
「辻堂の方にはあまり行った事がないわ…」
「そうなんだ。今度行ってみる?」
「えっ?」
「俺がサーフィンやってるのを見においでよ。バスならすぐだろう?」
「うん…そうだね……」
真子は少し驚いていた。
まさか、サーフィンを見においでと誘われるとは思っていなかったからだ。
拓が本気で言っているのか社交辞令で言っているのかが分からないので、
真子は当たり障りのない返事をする。
しかし真子は拓がサーフィンをしている姿を見てみたいなとも思った。
でも恥ずかしくてきっと一人では行けないだろう。
友里を誘えば一緒に行ってくれるだろうか?
そんな事を考えていると、ふいに拓が言った。
「宮田さん、俺と付き合わない?」
「______!」
真子はびっくりして何も言えずにいた。
そして拓が言った言葉をもう一度反芻してみる。
それから心を落ち着けるように努力しながら言った。
「えっと……どうして急に?」
「いや、実は前から気になってたんだよね、宮田さんの事」
「え? そうなの? 前っていつから?」
「1年の頃からかなぁ…」
それを聞いて更に真子はびっくりする。
真子は1年の頃、学校を休みがちだったし拓とはクラスも違ったので接点がない。
「え? クラスも違ったのにどうして?」
「宮田さんは歩いているだけで目立つよ。スラッとしているしサラサラの髪も綺麗だし…」
今まで面と向かって男子から褒められた事のなかった真子は戸惑ってしまう。
まさか自分がそんな風に見られていたとは…。
拓の言葉は凄く嬉しかったが、真子はまだ戸惑っていた。
そして率直な気持ちを拓に伝える。
「ありがとう。でもね、私と付き合ってもつまらないと思うよ」
「つまらない? どうして?」
「だって、私みんなと同じようには行動出来ないから」
「みんなと同じ行動って例えば?」
「うーんと…遠出は出来ないし大騒ぎも出来ないし?」
「ハハッ、カップルで普通大騒ぎはしないだろう?」
「そうかな……?」
「うん。それに別に遠くに行かなくてもいいし……」
拓はそう言って拾った小石を海に投げた。
「宮田さんは俺の事嫌い?」
単刀直入に聞かれたので、真子はドキッとする。
「き、嫌いじゃないけれど……」
「けれど?」
どうやら拓には適当なごまかしは効かないらしい。
拓は真子がちゃんと答えるまでじっくり待つ姿勢のようだ。
「じゃあ正直に言うね。私と付き合ってもセックスはできないよ」
そのストレートな物言いに、今度は拓の方が驚いていた。
おとなしくて清純そうな真子から、まさか『セックス』という単語が出るとは思わなかったのだろう。
「セックス……出来ないの?」
「うん…ココに悪影響だからお医者様から言われているの」
真子はそう説明して心臓の辺りを手で押さえた。
「激しい運動は禁止って事か……」
「…そうなのかな?」
その言葉を聞いた真子は、拓はセックスが激しい運動だという事をもう既に知っているのだなと思った。
そして同じ歳の拓の事が、急に大人びて見えた。
なんだか違う世界に住んでいる人のようだ。
拓はしばらく何かを考えている様子だった。
二人の間に沈黙が続く。
しばらくして漸く拓が口を開いた。
「わかった! それでもいいよ。プラトニックっていうのも結構新鮮でいいじゃん」
「……えっ? いいの?」
「うん。それにセックス抜きの方が、逆に純粋にお互いの事が分かり合えるかもしれないし」
拓の言う『分かり合える』という言葉の意味がいまいちピンとこなかった真子は正直に言った。
「ごめん…私今まで誰とも付き合った事がないから、そういう微妙なニュアンスがよく分からなくて」
「ハッ? 付き合った事ないの? マジで?」
「うん。あ、でも一年の時に三年生に告白された事はあるよ。でも今と同じような事を言ったら、やっぱりいいですって取り消
された。だからもう諦めてるんだ」
「諦める? 何を?」
「付き合うとかそういうのは……」
「諦めんなよ。俺は取り消したりなんかしないぞ」
「えっ?」
「しなくてもいいから、俺と付き合ってみない?」
「…………」
「駄目か?」
「駄目じゃないけど…でも絶対に続かないと思うよ」
「ハッ? 付き合った事もないのにどうして分かるんだよ」
「だって男の子ってそういうのないと駄目でしょう?」
「そんな事ないよ、俺は大丈夫だよ」
「本当?」
「ああ。だから頼む! 俺と付き合ってくれ」
拓はそう言うと、いきなりひざまづいて右手を差し出した。
まるでプロポーズの時のような姿勢だ。
その時、可愛い子犬を連れた上品な婦人が、
「頑張って下さいね!」
とニコニコしながら拓に声援を送った。
「ありがとうございます!」
拓はその婦人にニコニコしながら礼を言う。
そんな拓を見て、真子は思わずクスクスと笑い始める。
そこで拓がもう一度言った。
「宮田さん、お願いしますっ!」
拓は今度は手を伸ばしたまま頭も下げた。
するとそこへ通りかかった男性サーファー二人が、
「男子高生頑張れよっ!」
「健闘を祈る!」
と言って笑いながら通り過ぎて行った。
恥ずかしくて真子の頬が赤く染まる。
「分かったわ」
真子はそう答えると拓の右手を掴んだ。
「ひゃっほーいっ!」
拓の叫び声を聞いた先程のサーファーが、振り返って叫んだ。
「やったな、男子高生!」
「おめでとう!」
二人は笑顔で拍手を送ってくれた。
コメント
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すごく凄くピュアなデートからの拓くんの告白💕でも真子ちゃんからしたら大人の交わりを知ってる拓くんは別次元の人にも見えるよね👀 それでもプラトニックでもいい、と言ってくれる拓くんの気持ちと自分の気持ちを素直に信じてお付き合いしてね✨🤗🌷