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美しい女性はにこやかな笑みを浮かべながらこちらへ歩いて来た。



(凄く綺麗な人……でも誰? なぜ私の名前を?)



楓は不審に思い女性に聞く。



「あの……私に何か用でしょうか?」

「ええ。東条一樹さんの事でちょっと……ほんの少しでいいのでお時間いただけます?」



(社長の知り合い? ううん、こんなに綺麗な人だもの……もしかしたら恋人…とか?)



気になった楓は女性と話をしてみる事にした。



「少しでしたら……」

「ありがとう。じゃああそこのカフェにでも行きましょうか?」

「あ、はい……」



そして二人はカフェへ移動した。


楓は後ろを歩きながら密かに女性を観察する。

優雅な歩き方とメリハリのあるボディはまるでモデルのように美しかった。

女性は華やかなサーモンピンクのミニ丈のスーツに白いファーのコートを羽織っている。折れそうな細いピンヒールを履いているというのに、その歩みはまるでフラミンゴのように優雅だ。

おまけに彼女の身体からは上質な香水の匂いが漂い、髪も肌も爪もよく手入れされている。

この日ジーンズ姿だった楓は、同じ女として恥ずかしい気持ちになる。



カフェは先にメニューをオーダーする形式だったので、二人は飲み物を買ってから席に着いた。

椅子に座り真正面から女性を見た楓は、彼女の印象が先ほどとは少し違うような気がした。

もちろん第一印象で感じた美しさに変わりはなかったが、思ったよりも肌は荒れていて目の下にはくっきりとくまが見える。

身体全体のバランスも、思っていたより痩せ気味で少し不健康なイメージがする。

しかしそれよりも話の内容が気になったので、楓はすぐに質問をした。



「お話って何でしょうか?」

「あなたは今、一樹と一緒に暮らしているのよね?」



女性が『一樹』と呼び捨てにしたので、楓はすぐに『ああそういう事か』と察した。

そこで少し警戒気味に答える。



「はい、そうです」



楓が答えた瞬間、女性がキリリと奥歯を噛みしめるのがわかった。



「失礼ですが、社長のお知り合いですか?」

「あら、ごめんなさい、自己紹介がまだだったわね。私は篠崎美香と申します。一樹の恋人よ」

「…………」



女が自信あり気な様子で言ったので、思わず楓の胸がズキンと痛んだ。

しかしすぐにこう思い直す。

一樹が素敵な男性である事には間違いない。そして彼は社会で生きる人間だ。

だから楓は一樹に女の一人や二人いても不思議はないとずっと思っていたので、その言葉にさほど驚きはしなかった。



「そうですか」

「あら、驚かないの? 私達、かなり親密なのよ。一樹とは身体の相性はバッチリだし全てにおいてしっくりくるの。だから今ではお互いに離れられない存在なのよ」



美香はクスクスッと笑いながら言うとそれとなく楓の反応を見る。

しかし楓は昔から気持ちを表に出さない事が得意だったので、表情一つ変えずに冷静を保っている。

そんな楓を見て美香は明らかに面白くなさそうだった。



「それでお話っていうのは?」



楓は率直に用件を聞いた。質問をしながら心の中のアラートが鳴っている。

この時点で既にカフェに来た事を後悔していた。


一方、顔色一つ変えない楓を見て、美香のイライラも募っているようだ。



「一樹は昔から何人もの女がいたのよ。まああれだけのイイ男なんだもの、いても不思議はないわよね。ただね、一樹はやっと私だけの男になるって誓ってくれたの。だからあなたはもう用済みだっていう事を親切に伝えに来てあげたのよ」



美香はクイッと顎を上げると自信あり気に言い放った。



(嘘……社長が? 本当に?)



楓の心は動揺していたが、表向きは顔色一つ変えずにすましている。

楓が全く反応しないので、美香はさらにイライラを募らせているようだ。

その時楓がある異変に気付く。



(あれ? 彼女の額に脂汗が……それに手も少し震えている?)



自信満々の表情をしている美香だったが、身体は違う動きをしていた。

両手は小刻みに震え、足はイライラした様子で貧乏ゆすりをしている。

楓はそれに違和感を覚えすぐにピンとくる。美香の症状は先ほどヤスが話してくれた内容と同じだと言う事に。



(もしかしてこの人……覚醒剤をやってる?)



そう思う事で、美香に感じていた違和感が全て説明がつくような気がした。



(もしそうだとしたら、早く話を切り上げて家に帰った方がよさそうだわ)



ここで彼女とトラブルになっても一樹に迷惑をかけてしまう。

そう判断した楓は、なんとか機転を利かせて上手く立ち回ろうと考える。

そして美香に言った。



「何か勘違いをされているようですが、私は今とある事情で一時的に東条さんの家にお世話になっているだけなんです。それにもうすぐ彼の家を出る予定なので、篠崎さんが心配するような事は一切何もありませんから」



楓の言葉に美香は一瞬『あれっ?』という顔をした後、急に不自然な笑みを浮かべて言った。



「あら、そうだったの? やぁだ……私ったら勘違い? いやぁねぇ……恥ずかしいわ、ごめんなさい。私ったらすっかり早とちりしちゃって」

「いえ、誤解を招くような事をした私が悪いんです。本当にすみません」

「ううん、そういう事ならいいのよ。でもよく考えればそうよねぇ……一樹があなたみたいな平凡な方と真面目にお付き合いするはずないもの……フフッ、勘違いして悪かったわ」

「いえ……」



そこで楓は腕時計を見る。



「すみません……私そろそろ帰らないと……」

「ああ、ごめんなさい。すっかりお引き留めしちゃって。本当にごめんなさいね」

「いえ、では失礼します」



楓は美香にペコリとお辞儀をしてから、カフェの出口へ向かった。


カフェを出た楓の脚は少し震えている。



(あーっ、怖かった。まるでドラマの修羅場みたいだわ。でもなんとか上手く乗り切れたわよね? 頑張った自分を褒めてあげなくちゃ)



楓はそんな風に思いながらフフッと笑う。

そしてマンションへ続く横断歩道を渡ろうとしたその時、突然猛スピードで黒のミニバンが走ってきた。


楓がびっくりしてその車を避けると、バンは楓の前でピタリと停まり後部座席のドアが開く。

そして車内からガラの悪い男が三人現れると、あっという間に楓を車の中に押し込んでしまった。

時間にするとたった5秒程の出来事だった。



その時ちょうどカフェから出て来た美香がニヤリと笑いバンに向かって手を振った。

その後美香は上機嫌な様子でその場を立ち去って行った。

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コメント

141

ユーザー

まさかと思ったけど、罠だったんだ。 こんな事をしたら一樹さんが黙ってないよ‼️

ユーザー

ああ。「篠崎」かぁ。「叶」とちゃうかった~。ざんねーーーん。

ユーザー

皆さまのコメントを読んでいます💦 コメントを読んで本文を読もうと思ったけれどマリコ先生がおっしゃる ように明日もコメントだけ読みに来ます🙏 明後日はhappyなんですよね⁉️

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