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第5話、読み終えました。城外の廃道から一気に緊張感が走る展開で、手に汗握りました。特に印象的だったのは、追い詰められた状況でシュエルが「役割を分けましょう」と提案する場面です。互いを信じて役割を分担する――この信頼関係の積み重ねが、単なるバディもの以上の厚みを生んでいます。そして温室で見つかった日誌の「否決」の一文。母の筆跡が切迫していく様子も含めて、この世界の裏側が少しずつ見えてくる感じがたまらないです。続きがすごく気になります。
風哭きの旧温室へ続く廃道は、名前どおり風の音が絶えなかった。
翌朝、シュエルとサンタナは鋼の城の北門を出た。
レーネは城に残り、八年前の資料を引き続き調べることになった。代わりに彼女が持たせてくれた旧地図を、サンタナが何度も確認している。
「昨日のうちに入口までは見てきた。橋が一つ崩れてるけど、迂回路はある」
「先に調べてくれたんですね」
「約束したからな」
それだけの言葉なのに、シュエルは少し嬉しくなった。
廃道の両脇には、灰色の岩と背の低い灌木が続いている。
城から離れるほど、革カバーに挟んだ月白草の押し花の光は弱くなった。
「魔力の影響も薄くなっています」
「なら安全か?」
「少なくとも、城の近くよりは」
シュエルはそう答えた。
その判断を、しばらくして後悔することになる。
*
崩れた橋を迂回し、谷沿いの細道へ入ったころだった。
岩陰から、低いうなり声が響いた。
サンタナが足を止める。
「後ろへ」
シュエルが一歩下がった瞬間、黒い獣が茂みから飛び出した。
狼に似ている。
だが肩から背にかけて、青白い筋が脈打っていた。
「魔力を浴びすぎてる」
シュエルは息を呑んだ。
獣は一頭ではない。
右手の斜面に二頭。
正面に一頭。
サンタナは剣を抜き、正面の獣を牽制した。
「左の岩場へ走れるか?」
シュエルは周囲の植物を見る。
左側には背の高い白茎草が群生している。
湿った土地を好む植物だ。
「その先に水場があるはずです。獣の足を止められるかもしれません」
「分かった。行くぞ」
二人は左へ走った。
サンタナが後方を警戒し、シュエルが先を選ぶ。
だが十数歩進んだところで、足元の土が急に沈んだ。
「止まって!」
シュエルは飛び退いた。
白茎草の下にあったのは水場ではない。
黒く濁った泥沼だった。
表面には、青白い膜が浮いている。
「魔力液……?」
城から漏れた魔力が地下水へ混ざり、長い時間をかけて溜まったものらしい。
「ごめんなさい。植物だけ見て、水質まで考えてなかった」
「反省は後だ!」
背後で獣が吠えた。
サンタナが振り向く。
正面の一頭に気を取られた、その一瞬だった。
右の岩陰から別の獣が飛びかかる。
「サンタナ!」
シュエルが叫び、彼はぎりぎりで身をひねった。
爪が制服の袖を裂く。
サンタナは剣の腹で獣を押し返し、二人で岩壁まで下がった。
「悪い。見落とした」
「私も道を間違えました」
「今それ言うか?」
「今だからです」
シュエルは息を整えながら周囲を見る。
獣は四頭。
泥沼。
岩壁。
来た道は塞がれている。
焦って一人で全部を見るから、見落とす。
「役割を分けましょう」
「何を?」
「サンタナは獣だけ見てください。数と位置を全部。私は地面と植物だけ見ます」
「逃げ道は?」
「私が探します。獣が来る方向はあなたを信じます」
サンタナは一瞬だけシュエルを見た。
「分かった。俺もそっちを信じる」
彼は剣を構え直した。
「正面二。右一。左奥に一」
シュエルは地面を見る。
白茎草。
泥沼。
その向こうに、赤い葉の岩這草。
岩這草は湿地では根づかない。
岩盤が露出した硬い地面にしか生えない植物だ。
「あそこです。泥の向こう、赤い葉の場所!」
「距離は?」
「七歩くらい。右側に細い石の列があります」
「正面二頭、来る!」
「三歩進んで、右!」
サンタナが前へ出て獣を引きつける。
シュエルは足元の石だけを見る。
一つ。
二つ。
三つ。
「今!」
サンタナが後退する。
二人は石列を渡った。
獣の一頭が追って泥へ踏み込み、脚を取られる。
残りも足を止めた。
「走って!」
岩這草の斜面を駆け上がる。
風が強くなる。
頂上へ出た瞬間、半ば崩れた巨大な硝子屋根が見えた。
「温室……!」
*
旧温室の内部は荒れていた。
割れた硝子。
錆びた散水管。
乾いた栽培棚。
それでも中央の研究室だけは、石壁に守られて形を残していた。
サンタナが扉をこじ開ける。
中には帳簿が何冊も積まれていた。
「月白草……監視記録……」
シュエルは背表紙を追った。
そして最下段から、革紐で綴じられた一冊を見つける。
《停止条件に関する研究日誌》
「あった」
二人は机へ広げた。
八年前。
庭園の生命反応低下。
一度目。
二度目。
母の筆跡がところどころに残っている。
ページをめくるほど、記述は切迫していった。
《生命反応の三度目の低下を確認した場合、城の稼働を安全停止すること》
革表紙に縫われていた文の続きだった。
「やっぱり、停止条件だったんだ」
シュエルはさらにページをめくる。
次の欄には、赤いインクで大きく追記されていた。
《安全停止条項――王都審議により否決》
その下に、別の筆跡がある。
《理由:国境防衛機能を停止できないため》
シュエルとサンタナは、しばらく言葉を失った。
遠くで雷が鳴った。
割れた温室の天井へ、最初の雨粒が落ちてきた。