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#異能
#伝奇
なるほど、これが障りか。確かに対処法を知らず、事前に心構えができていない状態で触れたらかなりヤバいことになりそうだ。
「緊急事態とは言え、こんな危険物を持ち出すなんてどうかしてるぞ」
思わず俺はしかめっ面になる。
「柴崎さん、あんた、姫宮って子にこいつを運ばせたんだろ? 大丈夫なのか?」
「失敬だな。私が何の安全対策も取らせずに部下を動かすとでも? 鬼玄翁は霊毒を防ぐ強力な護符に包んで運ばせたし、事態が一段落したら、あの子にはカウンセリングやメンタルケア、清めの儀式も受けさせるから大丈夫だよ」
つまらないことを聞くな、と言うように眉間に皺を寄せる柴崎。
「そんなことより、ここからが本題だよ。……正直言って笑ひ岩は手強い。何しろあの稚児天狗でさえ活動停止に追い込んだだけで完全に滅ぼすことはできない相手だ。私のセンチビードや塚森家の外法はもちろん、青龍機関の実戦部隊でも手に余るだろう」
そこでだ、と柴崎は言葉を続ける。
「だから、鳥羽リョウ。――あなたがこの鬼玄翁で怪異を粉々になるまで砕いて欲しい。私と塚森コウで何とか敵の足止めをしている間にね。作戦と呼べるほどの作戦じゃないが、神様でもない私に提案できるプランはこんなものだね」
「……了解だ。直々に戦えってあいつに言われたしな。異論はない」
「いや、待って。ちょっと待って」
と、それまで黙って話を聞いていたコウが慌てたように口を挟んで来る。
「二人とも、流れるように話を決めてるけどさ。……いいの? リョウちゃんって、ただ死なないだけのド素人だよ? いっつも、キミカの巻き添えで怪異に殺されてるしさ」
「おい、コウ。お前、その言い方は……」
「鳥羽リョウが素人? いやいや、それはないよ塚森コウ」
抗議しかけた俺の言葉にかぶせるようにして、柴崎が反論。
「君達塚森家のルーツがかつての大怨霊、カガヒコノミコトの祟りを鎮めた祭祀集団・塚護衆。彼はその協力者だ。自ら人魚の肉を喰い、不死者となってまで怪異討伐に貢献した、謂わば英雄じゃないか」
「……いや、英雄はさすがに言い過ぎだ」
柴崎の言葉に俺は鼻白むのを禁じ得なかった。
「あいつを正気に戻すためには肉を切らせて骨を断つしかなくて、その為には死なない身体が必要だったんだ。……お膳立ては全部、塚護衆がやってくれたしな」
「あのね、鳥羽リョウ。あなたと大体同類のよしみで言わせてもらうと、他者のために自分を異形に変えられるのはじゅうぶん英雄的な行為だと思うよ?」
「別に他者のためじゃない。自分のためだ。俺は数少ない友達を失いたくなかっただけなんだよ……」
そこから先は俺は言葉にできなかった。だけど、わかっている。
これは俺が招いた呪いだ。病だ。災いだ。
俺のせいで、あいつは稚児天狗なんかになった。
俺のエゴが、あいつを神様なんて怪異に変えたんだ。
外法の天才だの、稀代の祈祷師何て呼ばれていても本当のあいつはただの子供だったのに。
親に認められたくて、愛されたくて、泣いていただけの子供だったのに。
俺の居場所は地獄にだってきっとない。
業苦に満ちたこの世を一人、何の意味もなくただだらだらと生き続けるのがさだめなんだろう。
そうでなければやらかしたことへの帳尻が合わない。
だけど、だからこそ――、この、無駄に冷たく硬直した命とも呼べない命を何かのための捨て石にしたかった。
そんな想いだけで俺は千年以上の月日を生きて来た。
それしかない俺はもはや人間じゃなく、怪異なのかもしれない。