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恋愛小説家の恋

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恋愛小説家の恋

第36話 - 第36話

202

2024年07月16日

#恋愛

#大人の恋愛

#イケメン

#大人ロマンス

#第3回テノコン

#ハッピーエンド

瑠璃マリコ

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202

瑠璃マリコ

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二人が並んで歩く姿は、本物の恋人同士のように見えた。

偶然とはいえ、二人の服装は下は白のパンツ、上はネイビーとラベンダー色で雰囲気が似ている。

そして何よりも健吾が嬉しそうに理紗子をエスコートしている様子が、二人をさらに本物のカップルの様に見せていた。

その時健吾は、理紗子からほんのりと漂ってくるほのかなローズの香りに心を奪われていた。

過去に健吾が付き合った女達は、ハイブランドの香水を身体中に吹き付けていた。

健吾の鼻がおかしくなりそうなくらい、きつい香りを好んで身に纏っていた。

健吾とベッドを共にした時にその香りが健吾に移る事をあえて狙っているかのように、どの女も体中にきつい香水を染み込ませ

ていた。

しかし理紗子がつけている香りは、まるでローズガーデンにでもいるようなさり気ない香りだ。

そのくすぐったいような優しい香りにすっかり心を奪われた健吾は、もう少し間近でその香りを嗅ぎたい衝動に駆られる。

今すぐにでも理紗子の耳や首筋に鼻を埋めて、その匂いを思い切り吸い込みたい欲望がひしひしと湧き上がってくる。

ついに我慢しきれなくなった健吾は理紗子に聞いた。

「君の…その、つけている香りはどこの香水？」

いきなり健吾がそんな事を聞いて来たので、理紗子は一瞬驚く。

それから言った。

「これは普通の香水じゃなくて、ジェリーフレグランスなの」

「ジェリーフレグランス？」

「そう。香水がクリーム状になっているの。私、普通の香水ってきつすぎて苦手なのよ。でもこれならふんわり香るから好きな

んです」

「そうか！　そのジェリーフレグランスっていうのはどこで売っているんだ？」

理紗子は健吾がなんでそんな事を聞いて来るのか不思議だった。

もしかしたら他に本命の好きな人でもいるのだろうか？

そしてその人にプレゼントするつもりとか？

いや、いるとしたら最初にそう言うだろう。

それに、もし本当に本命がいたら偽装恋人なんて作る必要はないし、好きでもない女を追いかけてわざわざ離島まで来たりしな

いだろう。

という事は、もしかしたら知り合いや家族にプレゼントとか？

そういう事ならと、理紗子は親切に教えてあげる事にした。

「これはデパートや駅ビルに入っているフランス製の『bonheur（ボヌール）』っていうお店で買ったの。香りは他にもいろい

ろあって、季節限定商品なんかも出ているから沢山の種類から選べるわ。同じ香りのシャンプーとかボディソープとか、女性が

使う一通りの物がそこで揃いますよ」

すると健吾はなるほどという顔をして理紗子に礼を言う。

健吾はその間も甘い香りに翻弄され、つい理紗子を抱き締めたいような衝動に駆られる。

しかし今この場でそれはまずい。

健吾は自分の欲望を必死に抑え込むと、平静を装い歩き続けた。

そして二人は海沿いのテラスレストランへ到着した。

レストランは、テラス部分が海ギリギリまで突き出していて海を近くに感じながら食事が楽しめる。

テラスの周りには、燃え盛る松明の炎が風に揺れ、脇にはヤシの木が何本も植えられていた。

真っ暗なはずの夜の浜辺は松明の灯りでうっすらと照らし出され、なんともロマンティックだ。

耳を澄ますと、打ち寄せる優しい波の音が聞こえてくる。

二人はテラスの先端の、海に一番近い席へ案内された。

おそらく支配人からの粋な計らいだろう。

理紗子はその特等席が気に入ったようで、

「素敵ー！」

と呟いてご機嫌な様子だ。

その時健吾は、理紗子の笑顔を見ているだけで今まで感じた事のない充足感に満たされている自分に気付いた。

なぜだかわらかないが、自分の心の中が理紗子でどんどん埋め尽くされていくように感じていた。

二人が席に着くとすぐにレストランのスタッフがメニューを持って来た。

メニューには様々な沖縄料理が並び、居酒屋風に単品で注文出来るようになっている。

それ以外にも、食事をする人向けの定食風のメニューも充実していた。

ホテルが経営している居酒屋なのでどれも美味しそうだ。

ホテルに居ながらにして現地のグルメを楽しめるとあり、テラス席はほぼ満席に近い状態だった。

二人は互いが好きなメニューをいくつか頼んでシェアする事にした。

色々な料理をつまみながら酒が飲めるなんて最高だ。

とりあえず理紗子が注文したのは、好物のゴーヤチャンプルーと沖縄もずく、そしてホテル手作りのじーまみ豆腐。

健吾は刺身の盛り合わせにグルクンの唐揚げ、ラフテーやあぐー豚の餃子を頼んだ。

注文が終わると、すぐに生ビールが来た。

もちろんオリオンの生だ。

二人はすぐにジョッキで乾杯した。

「冷えていて美味しいー！　オリオン最高ー！」

理紗子がそう叫ぶと、

「海を見ながら飲むから余計に美味いんだろうな」

健吾もビールをゴクゴク飲んでから笑顔で言った。