テラーノベル
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(ああ……私の馬鹿。なんてことを言っちゃったんだろう)
ベルは、生まれて初めて自分の発言を悔やんだ。
本当は、あんなこと言うつもりなんてなかった。
そりゃあ確かにちょっとは、レンブラントが誰とキスしたのか気になったし、わざわざ口に出した彼に対してイラッとしたけど、でも大の大人が異性とふしだらなことをしていないほうが不自然だ。逆に彼が未経験の方が怖い。
憎まれ口を叩いたのは、あまりにもレンブラントの瞳が真剣だったから、どうしていいのかわからなかっただけ。でも──
「レンブラントさん、ごめんなさい」
すぐ側でベッドに腰掛けているレンブラントのシャツの裾を、ベルはぎゅっと握った。
そうすれば、なぜか彼は笑った。
「あんたに殊勝な態度を取られると妙に怖い……嵐になるような気がしてならないな」
「なっ」
あまりの言い様に、思わず毒の一つでも吐きたくなる。
(違う違う。それじゃあ、いつもの流れになってしまう)
ベルは、むぎゅーっと唇を引き結んで苛立ちを押さえると、こんな自分になってしまった理由を吐露する。
「……私、軍人が嫌いなんです。だから、あなたに必要以上に突っかかってしまうんです」
「そりゃあ、初耳だ」
(当たり前だ。初めて言うのだから)
なんて言葉が出てきそうになるが、それもぐっと押し止めて続きを語る。
「軍人は嘘つきだから嫌いなんです。こっちが一番欲しい言葉をくれたと思ったら平気でそれを裏切るんですから。しかも、二度と文句を言えないやり方で……だから私、軍人の言葉は全面的に信じないって決めたんです」
「それは、あんたのお父上のことか?」
ベルが何を伝えたいのかすぐに察したレンブラントは、身体の向きを変えてこちらを覗き込む。
じっと見つめられるのは居心地悪いが、それでもベルはこくりと頷いた。
「そうです……あの日……いつもは何も言わずに外出する父が珍しく私に声を掛けたんです。”行ってくるよ。今日は早く帰れると思う”って。でも父は帰ってきませんでした。……いえ、正確には翌日に肉体は帰ってきましたが、魂はどっかに行ってしまったんです。翌日に帰るのが父にとって早く帰るという定義に当てはまるものだったかもしれませんが、父という存在の半分しか帰ってこなかったんですから、やっぱり嘘つきですよね」
あの頃、すでにベルと父親であるラドバウトの間には、深い溝ができていた。フロリーナを後妻に迎えたせいで。
ラドバウトは時間を見つけてはベルとの関係を修復しようとしたが、話せば話すほど溝は深まるばかりだった。
その原因は、ベルがまだ幼すぎたことと、ラドバウトが話下手で彼自身が後ろめたいことをしたという自覚があったから。
日に日に関係が悪化していく中、ベルは父親を避けるようになった。徹底して顔を合わせないようにして、食事も自分の部屋で取った。
でもベルは、父親を嫌ってなんかいなかった。顔を会わせれば憎まれ口を叩いてしまう自分が、嫌だったから。嫌いになりたくても、ベルは父親のことが大好きだった。
だからあの日、関所に向かう父がわざわざ部屋に来て声をかけてくれたことが嬉しかった。
戻ってきた時は、いつもは毒を吐いて終わりにしてしまう父親の話を、最後まで聞いてあげようと思った。そして、自分もひどい態度をとったことを謝ろうと思った。
けれど、ラドバウトは帰ってこなかった。
ベルはあの時、父親の死によって更に過酷な環境になる恐怖よりも、約束を破られたことが悔しくて悲しかった。
それから数年後、義理の姉のミランダは、元軍人ケンラートと結婚した。
日暮ミミ♪
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臣桜
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鷹槻れん

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#ハッピーエンド
れもん データ飛んだ人
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ケンラートは嘘つきで、横領に手を染めることに何の罪悪感を覚えず、平気な顔でベルを殴る。
そんな最低な人間と同じ屋敷で生活するようになって、ベルはもう完璧に軍人が嫌いになってしまったのだ。
コメント
1件
ベルが自分の過去を、それも一番脆い部分をレンブラントに打ち明けたシーン、胸に響きました。父親の「早く帰る」という何気ない言葉を、あそこまで重く、そして正確に覚えているところに、ベルがどれだけあの日を反芻してきたかが滲んでいて……。軍人を嫌う理由が「約束を破られた悔しさ」というのも、子供の純粋な視点としてすごくリアルでした。レンブラントの「あんたのお父上のことか?」という察しの良さも、彼の優しさと鋭さが感じられて、良い距離感だなと。