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たまごはんちゃーはん
『バカじゃないの?!そこは何度も教えたじゃない!!』
『うーん、まぁまぁな演技だね。上手いとは言えないかな。』
『あー…じゃあ、頑張って…ね。』
『どうせできないのにやったって意味ないじゃん。』
昔から言われ続けた言葉。それが今も噂となって時々流れる。重苦しい雰囲気に耐えられず、僕は一度逃げた。逃げてしまったのだ。
なんて愚かで、滑稽で、最低なのだろう。
演技のことさえも裏切ったことになる。あんなに楽しくて、好きで、嬉しいものだったのに、現実を突きつけられれば僕はすぐにこうなる。
夢を描くだけの、ただの凡人。
『知らないし…。』
努力してるのに責め続けられてもわかるわけない。
涙を流しながら公園のベンチに座っていると、ふと頬に冷たい感触を感じる。突然の出来事に驚き振り向くと、後ろにあるのは缶コーラだった。
どうやらベンチの後ろで小さな子が僕に向けて缶コーラを頬に当てたらしい。彼の身長は僕よりも大きいけれどベンチよりも小さく、顔が見えない。
『…だれ?』
はっきりと聞いた言葉に、缶コーラだけを出すその手を彼はゆらゆらと揺らし始めた。
『ふっふっふっ…きしゃま、何かに悩んでおるな?このぼくにまかせろ!!』
子供特有の滑舌の悪さが出ながらも、ぼくの心臓はドキドキと鳴っていた。
バクバクと、心音は頭の中に響くようにもなっていた。
『へへっ、どうだった?凄かった?』
ベンチから顔を出したのは、金色に染まる髪色をした小さな男の子。
───これが、ぼくとぺいんとさんの出会い。
酷く好奇心旺盛で、天真爛漫な彼を見ていると元気づけられた。明るくて、眩しい。まるでスポットライトでも当てられているかのような存在感に、僕は一瞬にして心を奪われた。
『ねぇねぇ!』
来る日も来る日も、僕はその子と遊んだ。何度も遊びに誘っては夕方まで遊び、また次の日も同じことの繰り返し…。
そんな生活を送っていたある日、公園に向かうとそこにいたのはぺいんとさんで、遊びに誘おうと近寄れば、彼の周りにいたのは僕のことを悪く言っていた人達で。
『もしかして、しにがみくんって子と一緒なんでしょ〜?』
『あ、頭悪いの?私のお母さんは看護師やってるけどね!!』
『僕のパパは飛行士やってるんだぞ!!』
いじめられている。いや、ただ自慢話を聞かされているだけかもしれない。でも、僕の名前が出てきた時点で”他愛もない話”だと聞き終えるわけにはいかなかった。
その日から僕は心に決めた。僕の周りの人が不幸にならない方法は、僕が関わらなければいいんだって。
…だって、そう思うだろう。その時の彼は、ぺいんとくんは…
『そっか、凄いね。』
なんて悲しそうな笑みをしていたことか。
演技が下手なんだろう。僕はもう分かっている。彼より下手で、みんなよりかは少し上手い程度の演技だなんて。
でも、噂になんて騙されるもんか。自分を偽ってたまるか。
───僕を隠すために入った演劇部。僕の本性を、僕の性格を隠すためだけに入った演劇部。でも今、それが関係ないのなら。
僕は、今日から僕でいよう。大切なものを失う前に、絶対。
トラゾーさんから話を受けて放課後まで時間は過ぎ去った。そんな放課後に、僕はぺいんとさんの教室へ向かった。
まだうるさい教室だが、どこか賑やかな様子だ。僕は扉をノックし、ぺいんとさんを呼び出す。
「あー、ごめん。今いないみたい。」
「じゃ、じゃあ…トラゾーさんとかは?クロノアさんも…」
トラゾーさんから話を聞いていたクロノアさん。もしぺいんとさんが見つからなければ、この2人を呼び出せばいいよと言われていた名前。
けれど。
「どうやら部活に行っちゃったみたい。ごめんね、わざわざここまで来てくれたのに。」
「いっ、いえ……こちらこそ。」
固く閉ざされたドアが、僕の目の前に静かに佇んでいる。
クロノアさんとトラゾーさんが部活に行ったことはわかるのに、ぺいんとさんがどこに行ったのかわからないなんて、意味がわからない。
走って、走って走って。先生に注意されながらも無視して。走って、走って、走って…。
───いた。
空き教室。誰もそこにいるはずのない教室に、彼はいた。
「…ぺいんとさん。」
声をかければ、相手はびく、と肩を跳ねさせた。こちらを振り向くと、相手は酷く驚いた顔をしていた。
「え?!な、なんで……いや、もう俺に絡まないんじゃ…?」
絡まない、なんてどの口が言えたのだろう。自分でもわかっている。その言葉は”毎日演技して自分を隠した自分の言葉”なんてこと。
「……バカなんですね。僕。」
「へ、へ?あ……え?」
相手が困惑するのも頷ける。頬が熱くてしょっぱいせいだ。