テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#海辺の町
紙片は机の中央に置かれたまま、皆で何度も読み返された。
『終わるまで、じゃなく、生きてるあいだ』
「つまり、死ぬまで待つ話じゃないってことか」
蓮都が腕を組む。
「もっと雑だなお前」
美恵が即座に返した。
芽生は走り書きの文字を見つめていた。
「これ、覚悟の言葉じゃないですね」
「え」
啓介が聞き返す。
「ずっと、悲しい別れの文だと思ってました。でも違う。これ……生きてるうちに会いに行くっていう、すごく不器用な願いだ」
鼓夏が頷く。
「会えないまま終わることを、最初から決めない言い方ね」
啓介は胸の奥が少し痛んだ。自分はここ数日、何も聞かないまま、何も言わないまま、勝手に終わるほうへ寄っていた気がしたからだ。
芽生は伏せていた目を上げた。
「この物語、ずっと生きる話です」
離れの中の顔が、少しずつ変わっていく。
享佑が腕を組んだまま言う。
「で、その“生きる話”の続きを誰から聞く」
莉々夏がすぐに反応した。
「決まってるでしょ。あの、昼だけ来て縁側に座ってた人」
第17話で泣いて帰った女性の姿が、皆の脳裏に同時によみがえる。
芽生は啓介のほうを見た。
真正面からじゃなく、少しだけ横から。今はそれが精いっぱいみたいな目だった。
「会いに行く、じゃなくて……伝えに行きませんか」
啓介はすぐには答えられなかった。
説得するためじゃない。寺へ戻れと言うためでもない。ただ、こちら側が知ったことを、まっすぐ渡しにいく。
そのやり方なら、まだ間に合うかもしれない。
「……うん」
やっと出た返事は短かったが、芽生はそれで十分だと分かったように小さく頷いた。
止まっていたかるたが、少しだけ前へ進む。
次に動くのは札ではなく、人の足だった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!