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まこ
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『管理者』である私の『後継者』に相応しい叶糸と出逢い、もう二度と死に戻る事のないようにトラブルの原因を徹底的に避け、お互いの問題を一手に解決する手段として結婚。生粋の『獣人』だからかしょっちゅう本能に支配されてしまう叶糸に流され続けて十人もの子宝に恵まれて、私は『貴族』として人々の生活に溶け込みながら叶糸の『人生』の『終わり』まで寄り添い続けた。
(あっという間に終わると思っていたけど、むしろ、此処までの方が随分と長かった気がするな……)
退屈だったからとかじゃない。むしろその逆だ。南風家の面々のおかげで毎日が平穏で、でもちょっと刺激的だったりもして、そしてすごく『幸せ』な日々だった。手助けが多かったり、貴族独特の子育て方法があったりしたおかげで大変さはかなり分散されてはいたけど、それなりには育ての苦労も経験出来たし、十人もいると全員に個性があってとても楽しかった。『十人十色』ってこの事なのかと何度も思った。ただ……皆、非行に走る事なく育ってくれたのは嬉しいが、何も私達の子供らにまで『管理者様万歳っ』みたいな南風家流の教育は不要だったんじゃないかなとは、今でも考えている。
思い残す事なんか、もう何一つとして無い。
そう断言出来るくらい、『南風アルカナ』として送った『余生』は本当に素晴らしいものだった。
——叶糸と共に歩んで来た短い『人生』を振り返り、カツン、カツンと靴音を鳴らして部屋の中を進んで行く。やや大きめの窓から綺麗な大空や庭の紅葉が一望出来て、とても綺麗だ。少し窓が開いているおかげで爽やかな風が吹き込み、私の頬を軽く撫でた。
窓の側には一台のベッドが置かれており、年老いた叶糸が横になっている。まぁ『年老いた』とは言ってもせいぜい『人間』の外観で言うところの五十歳台くらいの見た目のままだ。出逢ってからもう二百二十五年三ヶ月と二十三日が経過したというのにこの見目なのは、ひとえに彼が、『獣人』であったおかげだ。
(まぁ、叶糸であれば、木肌のように皺を刻んだ顔になっても、きっと似合っていただろうがな)
『獣人』の平均寿命である約二百年を大きく超え、叶糸は今や世界の御長寿記録を塗り替えた。ここ数年はベッドで眠ったままな時間が多いが、起きている時はハッキリと受け答えが出来るのだから流石は私の『後継者』だ。
(……うん。充分回復したから魔力量も申し分ないし、これなら大丈夫だ)
ベッドに端に腰掛け、そっと頬に触れて改めて確認したが何も問題はなさそうだ。まぁ結婚百五十年目くらいの時点で既に必要条件を満たしていたのだから当然か。
「……叶糸」と彼に声を掛ける。何も無理に起こそうとしている訳じゃないから、『魂』に直接呼びかけた。
『——アルカナか。起こしに来たのか?』
直様彼の優しい声色が胸の奥で響く。この声を聴くのは二週間ぶりくらいか。今回は『耳』で聴いている訳じゃないから、『聴いた』と言っていいのかは疑問だけども。
「いいや違う。……『その時』が来たぞと、知らせに来たんだ」
『……そうか、やっとか』
「あぁ」と短く返す。体の方には何も反応はなく、ただゆっくりと呼吸を繰り返しているだけだ。
もう彼が意識を取り戻す事は二度と無い。今この瞬間にも叶糸の『寿命』が尽きかけているからだ。そんな彼に寄り添う私はさながら『死神』のようだなと思う。誰一人として家族を呼ばず、二人きりの部屋で『人生』の『終わり』を迎えさせるのだから似たようなものだろう。
「今、時間を止めたぞ」
さっきまで吹き込む優しい風で揺れていたレースのカーテンが不自然な形でぴたりと止まる。空を飛ぶ鳥も、庭で落ち葉を集めていた者達もその動きを縫い止められたみたいに動かない。
「時間を再度動かせば、次の瞬間にはもう、『南風叶糸』としての『人生』は幕を閉じる。これから君はこの『惑星・ハコブネ』の『管理者』として生きていく事になるんだ」
『説明をどうも』と、叶糸が穏やかに笑った気がする。
『そんな改めて言われなくても、ちゃんと覚えているよ』
こちらに届くのは『声』だけなのに、その表情まで想像出来る。それなりの期間を一緒に居たおかげだろうな。
「じゃ、『最後に一つだけ願いを叶える』と言った事も、覚えているか?」
『あぁ、勿論。悩む時間はたっぷりあったから、ちゃんと決めてもあるよ』
「そうか」と言い、ゆっくりと頷いた。
(……やっと、私の『願い』も叶うのか)
そう思うと、感慨深い気持ちになってくる。
走馬灯って程じゃないが、過去の出来事が自分の中で蘇ってきた。どれもこれも、私にとっては、最近のものばかりだ。『管理者』として一人、『ハコブネ』を模して創られた巨大なホログラムが浮かぶ空間で、山のように積まれた『地球』に関する文献や資料に囲まれて仕事に明け暮れていた時の事なんか殆ど浮かんでこない。
(叶糸を『幸せ』にするって言っておきながら、むしろ『幸せ』を貰っていたのは私の方だったみたいだな……)
今になってそうだった事に気が付いた。うん、やっぱり後悔なんか何一つとして無い。
私は、悔いもなく消えていける。
「時間が再度動けばもう、『願い』の選び直しは出来ないけど、大丈夫か?」
『大丈夫。オレの願いが変わる事はあり得ないから』
強く断言する叶糸の声が心地良い。……この声を聴くのもこれで最後なのかと思っても、感じるのは満足だけだ。
「じゃあ、再び『ハコブネ』の『時間』を動かすぞ」
『……頼む』
見えてはいないとわかっていても、私はゆっくりと頷き応えた。
窓の外をチラリと見たが、すぐにその視線を、眠る叶糸の方に戻した。
『最後』に見る光景は……『伴侶』のものが一番だろうから。
右手を軽く上げ、パチンッと指を鳴らす。と同時に静止していた『時間』が再び動き出し、『ハコブネ』が息を吹き返したかのようにその生命活動を再開させた。それとは真逆に叶糸の呼吸がぴたりと止まる。……穏やかに動いていた鼓動と、胸の動きも。
さぁ、願いを教えてくれ、叶糸。
——私の『魂』を『贄』にしてでも、君の願いを叶えるから。
『……この先もずっと、アルカナと一緒に居たい』
「——は?」
私の『魂』が『願いの代償』として弾け飛ぶか否かの刹那の瞬間に、何かとんでもない『最後の願い』が聞こえた気がしたけど、もう後戻りなんか不可能だった。
コメント
1件
読了したよ〜〜!!😭💕 第44話、もう涙腺崩壊寸前だった……。 アルカナと叶糸、225年もの時間を共にした絆の終焉、でも叶糸のラストの願いが「ずっと一緒にいたい」って、もうズルすぎるでしょ!?😭💔 「最後に見る光景は伴侶のもの」っていうアルカナの覚悟と、それを上回る叶糸の執着、マジでエモすぎて言葉にならない……。 次がどうなるかマジで気になる!続き早く読みたいよ〜!!!🔥