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毎日くり返されるほんのひと時、言葉を交わし、帰り際にごちそうさまと声をかけニコッとする彼女。

 

亮介の様子が変だとすぐに気がついて、元気ない? とか大丈夫? とか、声をかけてきた。人のことも観察できるんだなと感心する。

 

例のキャラ変が原因で、恋人に振られたときも、未央は何か察した様子だった。あれで振られるのはお決まりのパターンでそんなに響いてなかったが、別れを告げられるのは素直に悲しい。必死に未央にも笑顔を向けていたが、それが伝わったようだ。

 

「郡司くん、泣きたいときは泣いていいと思うよ」

 

帰ってからその言葉がこみ上げて、わんわん泣き腫らした。未央に言われなければ、そうはしなかったかも。思ったよりひきずらず、気分スッキリ、失恋バンザイ。朝を迎えるころには気持ちも明るくなっていた。

 

あるとき、1週間くらい彼女が店に来ないことがあった。珍しいなと思いつつ気にする自分がいることに驚いた。

 

久しぶりに未央があらわれたとき、なんだかほっとした。「久しぶりですね」と声をかけると、ペット可物件に引っ越していて忙しくて来られなかったそうだ。動物でも飼うことにしたのかな。そんな未央を、好きだと自覚したのはあの人工呼吸事件だった。

 

未央に会ったのは本当にたまたま。駐輪場のあたりの脇道を通りかかると、彼女がいるのが見えた。店の外で会うのは初めてだったけど、確かにそうだ。

 

「未央さ──」

 

そう声をかけるとパッと姿が消えた。えっ? なんで? 彼女が倒れたのに気がつくのに数秒かかったが、あわてて駆け寄る。意識はなく、真っ青だ。呼吸は確認できないほど弱い。

 

その前の週に駅ビル主催の救命救急講習にいったのが幸いし、躊躇なく人工呼吸と心臓マッサージをすることができた。

 

恋人同士のキスとはまったく別物だっがとにかく目を覚ましてほしくて必死だった。

 

途中で目が覚めた未央は、少し顔色も良くなって救急車で搬送されていった。周りの人が話している声が聞こえる。

 

「あの人知ってる、高台の借家に住んでる人だよ」

「え、あの年季入った三軒続きの?」

「小学生にはお化け屋敷って言われてるところ」

「わー、怖いわ」

 

高台の、三軒続きのお化け屋敷。どんなところか興味があって、その人に場所を聞いて見に行った。

 

高台で、三軒続きの借家。確かに古いけど外の掃除は行き届いている。そこまでお化け屋敷感はない。通りから丸見えの部屋のドアには確かに「篠田」の表札があった。

 

ここで間違いなさそう。

 

見るとそのうちの一軒は、入居者募集の張り紙がしてあった。

 

その足で不動産屋へ行き、あの借家を借りたいと申し出ていた。その行動力に自分でもびっくりするくらいだったが、彼女の近くにいたい。それだけだったように思う。自分がこんなに未央のこと好きになっていたなんて。もう自分で自分を止められない。駅で退院してきた未央に会ったとき、手の甲にキスした。自分の印象を未央にもっと深く刻みつけたかったから。

 

その次の日には引っ越した。勢いに任せて引っ越したのはこれが初めて。大家がいつも掃除をこまめにしてくれていたようで、古いけれどきれいな物件だった。

 

引っ越しのあいさつにいったが、未央は寝ていたのか不在。夜、縁側の窓が開く音がしたので、自分も外へ出た。上半身裸は、わざと。どんな顔するか見たかったから。

 

未央が住んでいるのを知らないふりをして、話を合わせる。さすがに本当のこと知ったら引くよな。

ぎゅっと抱きしめても口にキスするのは避けた。

 

──自分の気持ちをハッキリ言えないところがあってね

 

そう未央のおばあさんが言っていた。でも俺に対しては、調子悪い? とか泣きたいときは泣いていいと思うよとか、いろいろ言えるじゃん。

 

傷つくのを恐れてるんだろう。でもそれならなおさら、彼女から好きって言ってほしい。傷ついても、失敗してもいいから好きって言いたいってくらい、俺のことを好きになってほしい。

 

そこから俺の、彼女に好きって言わせる作戦が始まった。

museとお料理教室のコラボ企画は、店長から打診があったので、知り合いの人がいるからと、未央に話をした。あんなに未央が仕事に火をつけるタイプとは知らず驚く。確かにmuseでの姿は一生懸命だったけど。

 

コラボの話のあと、今後の作戦会議のため、未央と別れ、やつに会いに行く。

とにかくそのまま王子さまキャラの自分でいけ!! と言われたが、ゴキの件で全て吹っ飛んだ。

 

黄色い声にキャラ変までバレてしまってもう最悪だ……と思ったのだけど、彼女はそのままでいいと言ってくれた。

その言葉は素直にうれしかった。

すき、ぜんぶ好き。

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