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夜の空気は、昼間の暑さを少しだけ残しながらも、涼しい風が混じっていた。提灯の明かりが通りを彩り、屋台の声や笑い声が絶え間なく響いている。
「こっちの祭り、初めてだな」
「うん。雰囲気が少し違うね」
浴衣姿の私は、手にうちわを持ちながら人混みをすり抜ける。
翔太はそのすぐ後ろで、時々肩に手を置いてくれた。
「見て、あれ可愛い」
屋台の一角に、色とりどりの小さな根付けが並んでいる。
金魚、花火、ひまわり——どれも夏らしいデザインだ。
「これ、ペアでどう?」
翔太が指さしたのは、青と白の金魚の根付け。
「おそろいってこと?」
「そう」
少し迷ったふりをして、私は白い方を手に取った。
「じゃあ、こっち」
「じゃあ俺は青」
会計を済ませ、根付けを渡し合う。
小さな布の感触が、妙に胸をくすぐった。
「これで夏の記念だな」
「……そうだね」
夜空の向こうで、大きな花火が開いた。
その光に照らされた翔太の笑顔は、提灯の明かりよりもずっと眩しかった。