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丘の上まで続く細い坂道を、二人で並んで歩いた。昼間の暑さは少し落ち着き、風が汗をやさしく冷ましていく。
「こんなとこに道あったんだ」
「小さい頃、よくここまで自転車で来てたの」
「へぇ、秘密の場所ってやつ?」
「……そう」
坂を上りきると、海が広がった。
遠くの水平線まで澄み渡る青が続き、その手前には街並みが小さく並んでいる。
ベンチに腰を下ろすと、潮風が髪を軽く揺らした。
「夏休み、もう半分終わったな」
「そうだね……早いね」
「もっと色んなとこ行きたかったな」
「まだ間に合うよ。……たぶん」
少し笑い合ってから、また沈黙が訪れる。
でも、その沈黙は心地よかった。
翔太がポケットから小さなペットボトルを取り出し、私に差し出した。
「はい、冷たいお茶」
「ありがとう」
一口飲むと、冷たさが喉から胸へと降りていく。
その感覚と同じように、隣にいることが自然に感じられた。
「ここ、来年も来ような」
「……うん、来よう」
夕日が海をゆっくり染めていく。
その色を二人で眺めている時間が、ずっと続けばいいのにと思った。