次の日優羽は山荘の仕事が休みだった。
朝、流星を保育園へ送った後久しぶりに部屋でのんびりしていると岳大から電話が来た。
「もしもし?」
「おはよう! 優羽さんは確か今日休みでしたよね?」
「はい。それが何か?」
「何か予定はある?」
「いえ、特には」
「じゃあ買い物に付き合ってもらってもいいですか?」
「えっ? 買い物? でも今日はまだテレビ局の密着があるんじゃ?」
「そうなんですよ。なんか街中での買い物様子を撮りたいらしいんですが男一人だと味気ないので保坂さんが優羽さんに来てもらえないかって言うんですよ。だから新事務所の家具選びに付き合っていただけませんか?」
優羽は『家具選び』というワードに心惹かれる。これから自分の職場にもなる事務所の家具選びなら是非参加したい。
そこで優羽は快く了承すると電話を切った。そしてすぐに出かける準備をする。
岳大の事務所のタッフという立ち位置なのでカジュアルな服装で行く事にした。あくまでも主役は岳大なのであまり目立ちたくない。優羽は細身のジーンズにオフホワイトのタートルネックのセーターを着た。
そして耳には初めてのボーナスで買った誕生石のサファイアのピアスをつける。
もちろん上着には『peak hunt5』のダウンジャケットを着た。
岳大の家に行くと既に撮影クルーが優羽を待ち構えていた。車を降りると保坂が近づいて来て言った。
「森村さん、お休みのところ申し訳ありません」
「あ、いえ。ただ、私なんかがお邪魔しちゃって大丈夫ですか?」
「もちろんですよ! 女性の方がいてくれた方が華があって有難いです」
笑顔の保坂に岳大が言う。
「すみません僕には華がなくて」
そこでその場にいた全員が声を上げて笑った。優羽もフフッと笑ってしまう。
それから優羽と岳大はテレビクルーが乗るマイクロバスに乗せてもらい街中の家具店へ向けて出発した。
車に揺られながら優羽は隣に座る岳大に聞いた。
「どちらの家具屋さんに行くのですか?」
「駅前アーケード街の三沢家具店に行こうかなと。こっちには東京みたいな大型家具店はないんですね」
「そうですね、家具店は個人がやっている店しかないですね。あ、でも三沢家具店は結構評判がいいですよ。田舎町の家具店にしては品ぞろえも多いですし」
岳大はとりあえず必要なものはベッド、会議にも使える大きめのダイニングテーブルセット、それに岳大の編集用のデスクと井上と優羽のデスクも二つ欲しいと言った。もちろん椅子もだ。
あとは三人掛けのソファーでいいものがあれば買うという事だった。ソファーは井上の仮眠用も兼ねていた。
「すごい量ですね」
「うん。東京のマンションの家具は置いてきちゃったからこっちの分は一から揃えないとなんだよね」
優羽は代々木上原のマンションがそのままの状態なのだと知りなんだか嬉しかった。
あのマンションは初めての出張の思い出の場所だったからだ。
そして間もなくマイクロバスは三沢家具店へ到着した。
テレビ局スタッフが三沢家具店の店長へ取材許可を取ってから岳大達は店へ入った。
店内には今流行りのモダンなタイプの物からカジュアルな物、そして手作り民芸家具等様々な種類の家具があった。
撮影クルーの撮影準備が整うといよいよ店内での撮影が始まる。岳大はダイニングテーブルから見て回る事にした。
会議でも使えるように最低でも六人掛けのテーブルが欲しかった岳大は何点か展示してあるテーブルを見て回る。
そして候補を二つに絞ると優羽を呼んでどちらがいいか聞いた。
一つはオーク無垢材の天板で脚はアイアン製。揃いの椅子も無垢材で座面はPVCレザー製だ。これなら汚れても手入れがしやすい。
もう一つは天板も脚もタモ材で出来たライトベージュ系のものでデザインは北欧風の繊細なデザインだった。
揃いの椅子も同じテイストで統一され座面は茶系の布製だった。
二つを見比べたり実際に触ったり座ってみたりしたが、岳大のイメージだとどう考えてもオーク無垢材のがっちりした方だろう。それを岳大に告げると、
「実は僕もこっちがいいなって思っていました」
岳大がそう言ったので、即決でオーク無垢材の物に決まった。