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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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海斗の家に着くと三人は笑顔で出迎えられる。そして廊下の一番奥の部屋に通された。

そこは三十畳くらいはありそうなとても広いリビングルームだった。


部屋の一角が海斗の仕事場になっていて、横長のデスクの上にはパソコンが三台、キーボードやスピーカー、

音楽スタジオにあるような機材が並んでいる。そして壁際には沢山のギターが並んでいた。

まるでちょっとしたスタジオのようだ。


部屋全体はグレーと黒の落ち着いた色調で隅にはアイランド式のキッチンがあり、キッチン側には大きなダイニングテーブル、

そして窓側には座り心地の良さそうな革張りのソファーがあった。


亜矢子は部屋に入るなり、


「素敵ー! 広ーい!」


と感嘆の声を上げる。

浩も海斗の仕事場を見て、


「すごいですね。まるでスタジオだ」


と感動していた。

美月はというと、あまりの凄さに何も言えずにいた。


その時浩が名刺を取り出して挨拶を始める。


「今日はお招きありがとうございます。亜矢子の夫で田村と申します。先日は横浜で妻がお世話になりました」


浩は海斗に丁寧に挨拶をした。

すると海斗もデスクから名刺を持ってきて浩に渡した。


「沢田です。こちらこそ先日は奥様においでいただき嬉しかったです」


と言った後、海斗は浩の名刺を見てびっくりした顔をしてから続けた。


「博翔堂にお勤めでしたか。私の知り合いに田畑洋二という者がいるのですが、もしかしたらご存知でしょうか?」


浩もその名前を聞いて驚いた顔をする。


「はい、おります。営業企画部の田畑ですよね?」

「そうです! 前にCMの仕事でご一緒して」


亜矢子の夫の浩は広告代理店に勤務している。

海斗とは仕事を通じて共通の知り合いがいたようで、一気に盛り上がり話を始めた。

そしてしばらく話を続けた後、ふと浩が壁際に飾ってある海斗の釣竿を見て更に驚く。


「バス釣りやられるんですね? 実は僕も時々やるんですよ」

「そうでしたか! どの辺りで?」


そこでまた二人は意気投合する。

男同士、話は尽きないようだった。



男性陣がお喋りに夢中になっている間、美月と亜矢子は早速料理の盛り付けを始めた。

料理を皿に盛りつけながら、亜矢子が小声で言った。


「これが一流ミュージシャンの自宅なんだね。想像以上に凄くてびっくりしちゃった」

「私もよ」

「ざっと見た所、女の影はなさそうなので大丈夫だね!」


亜矢子が茶化すように言ったので、美月は亜矢子をたしなめる。


「こらっ」


美月の怒った顔を見た亜矢子が声を出して笑った。


テーブルに料理が揃った所で、海斗がよく冷えたスパークリングワインをグラスに注ぎ始めた。

しかし海斗は自分のグラスにはノンアルコールのお酒を注ぐ。

それを見た浩が海斗に聞いた。


「飲まないんですか?」

「ええ、深夜にちょっと所用で車に乗らなくてはならないので」


と申し訳なさそうに言った。

それを聞いた美月は、


(予定があるのに無理して呼んでくれたのかな?)


と、少し心配していた。


準備が整うと、四人は席について乾杯をした。

そこからは食事をしながら楽しい話で盛り上がる。


海斗が浩達に、


「今度はお子さんも是非連れて来て下さい」


と言うと、亜矢子が感激して、


「また今度があるのねー!」


と嬉しそうに叫んだので他の三人が声を出して笑った。


亜矢子が作ってきたスペアリブとマッシュポテトはとても美味しかった。

そして美月が作った料理もとても好評だった。

特に海斗はアパートで味見をしたローストビーフがお気に入りで、美味しいと言っては何度もおかわりをしていた。

美味しそうに食べてくれる海斗を見た美月は、作った甲斐があったなと思っていた。


食事と会話がひと段落した所で、美月が望遠鏡を組み立て始めた。

そしてその望遠鏡を運ぼうとすると、海斗が来てひょいと持ち上げルーフバルコニーまで持って行ってくれた。

美月はその後ろをカメラとパソコンを持ってついて行く。


亜矢子はそんな二人の様子を見ながら夫の浩に言った。


「ねぇ、あの二人、いいでしょ?」

「うん。海斗さんはすごく優しいしきっとうまくいくよ」


二人は見つめ合って微笑んだ。



海斗と美月がバルコニーに出ると、生暖かい風が吹いていた。

空には明るい満月が輝いている。

スーパームーンと呼ばれるだけあり、いつもの満月よりも迫力に満ちていた。


美月が望遠鏡の調整を始めると、海斗はバルコニーの隅にあったガーデンテーブルと椅子を持ってきてくれた。

美月は、


「ありがとう」


と言ってからテーブルにパソコンを載せた。

海斗は、もう一つ椅子を持ってきて美月の隣に座る。


「写真を撮るところは初めて見るなあ」

「そうですね。公園では望遠鏡だけでしたからね」


美月はそう言ってから、望遠鏡にカメラを固定しピントを合わせ始めた。

カメラの液晶画面には明るい月が映し出されている。

そしてピントを合った瞬間、美月がレリーズのボタンを押した。


カシャッ カシャッ カシャッ


カメラの乾いたシャッター音が響く。

美月が集中して一生懸命撮っている姿を、海斗はじっと見つめていた。

そして初めて見美月に出逢った満月の夜を思い出していた。


(あの日も一生懸命月を観ていたな)


そんな思いに耽っていると、リビングでの出入り口で声がした。

亜矢子と浩も月を眺めに来たようだ。


「うわー、月が綺麗! 美月撮れてる?」

「うん、ばっちり」


美月は満面の笑みで答える。


美月は撮ったばかりの写真のデータをパソコンに取り込み、すぐに画像加工を始める。

それを見た浩は、画像加工に興味を持ったようだ。


「美月ちゃん、こんなに難しいのをどうやって覚えたの?」

「SNSの天体写真グループの人達が教えてくれたの」


美月は答える。


「へぇー、SNSも捨てたもんじゃないなー」


浩は感心しながら、美月の画像加工の様子を興味津々で眺めていた。

そして時折質問をしている。


そんな二人を残して、亜矢子と海斗は部屋へ戻った。


「沢田さん、もう一杯飲みますか?」


亜矢子がノンアルコールワインのグラスを手にして持ってくると、


「ありがとう」


海斗はグラスを受け取った。

そして二人はソファーに座って飲みながら、外にいる二人を眺めた。

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