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眩しい箱。
それはサペにも覚えのある言葉だった。子どものころ、祖父に肩車されて見た人形劇の題目のひとつ。雨上がり公園の小さな舞台で、光る箱から星や花が飛び出す演目だった。
なのに今、案内状の下には、味気ない会社名のようにその文字が印刷されている。
「こんなの、勝手に使っていいの」
エリアが不快そうに言った。
午後、マイナが市役所帰りに工房へ来た。きっちり留めた髪も、手に抱えた書類の束も乱れていない。けれど目だけがいつもより鋭かった。
「急いで見せたいものがある」
彼女は机に地図と複写資料を広げた。
雨上がり公園の周辺、雨庭商店街、古い倉庫、公民館の裏手。
赤い印が点々とついている。
「この一か月で、相談窓口を通した土地の仮押さえが増えてる」
「相談窓口?」
「表向きは生活支援、事業転換、家計相談。窓口名は全部ばらばら。でも資金の流れをたどると、最後に同じ所へ寄る」
マイナは書類の一番上を指で押さえた。
眩しい箱。
「買収窓口の中心」
サペが静かに言う。
「そう。しかも速い。迷ってる人を待たないで、弱ってる時にだけ来る」
エリアが腕を組んだ。
「じゃあ黒い名刺は、悩みを集める釣り針か」
「その可能性が高い」
マイナは答える。
「願いを叶えるんじゃない。弱った人から順番に囲ってる」
サペは、机の隅に置いてあった片目のないからくり人形を見た。
祖父の工房、雨上がり公園、昔の舞台の名前。
ばらばらだったものが、いやな形でつながり始めている。
「先に助けられるところがある」
マイナが別の紙を出した。
「公園の隣で飲み物屋をやってるキオノフさんの所。来月までに退けるよう圧がかかってる」
ちょうどその時、外から怒鳴り声が聞こえた。
「ふざけるな! 子どもの練習場所まで消す気か!」
ピットマンの声だった。
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#勧善懲悪
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